3-5

 バトルの方はタイムアップとなり、最終的にレッドカイザーとマルスの勝敗と言う意味の決着はつかなかった。

ゲーム的には引き分けとして処理され、内容的にも興ざめな展開になるとも考えられたのだが――。

『お前は、蒼流の騎士に何を感じた?』

 レッドカイザーの一言、それはマルスにとっても衝撃的なワードだった。何故、向こうが蒼流の騎士そうりゅうのきしを知っているのか?

自分がレッドカイザーとぶつかる事になったのは、向こうの言う正義とこちらの正義の対立だったはず。

それさえも、蒼流の騎士が考えているシナリオとでも言うのか? これに関して、一番疑問を持ったのは観戦をしていた舞風まいかぜの方であるのだが。

「蒼流の騎士? 一体、何者なんだ!」

 マルスの一言は明らかに何かが欠けている様な――。

それこそ、今まで聞いていたはずのワードを改めて聞き直すような物である。

『鍵を渡した人物は覚えていないのか? 彼が――』

 何かを話そうとした瞬間、レッドカイザーの姿は一瞬で消えてしまう。これには舞風も困惑をするほどだ。

ARゲーム自体、ログアウトと言う概念があるのだが――それとは違う消え方には驚きがあったのだろうか。

【消えた?】

【どういう事だ? アバターが消えるなんて】

【何らかのバグか、それとも不具合?】

【ARゲームで不具合があれば、公式が動く。特にそうした流れはない】

【じゃあ、一体何が起こったのか】

 動画のコメントでは様々なやり取りが行われており、直接見ていたギャラリーからも困惑の声が上がる。

しかし、ゲームの方は正常に終了しており、それ以上でもそれ以下でもない。

(やっぱり、その路線か)

 特にバグや不具合とは違う可能性でレッドカイザーは消えたのだ。舞風は、そう割り切る事にする。

そうでもなければ、マルスの方が逆に納得をしないだろう。引き分けの上に――ああいう消え方をしたのだから。



 しかし、バトルの終了直後――特にマルスがレッドカイザーが目の前から消えた事には何も感じなかった。

鈍感と言う訳ではなく、思考が追いついていなかった訳でもなく、単純に仕様だと考えたのかもしれない。

浮遊大陸も、七つの鍵も――もしかすると、蒼流の騎士が作りだした物なのではないか――と。

作りだした物と言う考えは飛躍しすぎかもしれないが、どう考えても自分とレッドカイザーが周囲の存在と明らかに違うのは分かる。

それに加え、瀬川せがわプロデューサーも――何となく察しているのかもしれない。

「やはり、この世界は――」

 マルスが何かを切りだそうとしたのだが、舞風は周囲の様子を踏まえて一言だけ――。

「ゲームよ。あくまでも、アバター同士のARバトル――それが、ここ草加市では日常になっている」

 テンプレ的な返し言葉なのかもしれないが、今はそれ以上の事を話しても彼の思考が追いつくのか不明だろう。

いずれ、あの時に話していた事も含めて具体的に話す必要もあるだろうが、今はその時ではないと判断した。



 帰り道の途中、自宅へ戻ろうとしていた舞風のガジェットの着信音が鳴る。音的にはメールだろう。

しかし、このタイミングで誰かからメールがあるだろうか? 重要なメールでもない限り、着信音は鳴らない設定のはずなのに。

少し立ち止まってガジェットを取り出し、メールを確認しようとした矢先――それは姿を現した。

『私の名はレッドカイザー。SNSは狙われている』

 モニターに表示されたのは、先ほどまで戦っていたはずのレッドカイザーだった。

何故、このタイミングで彼は姿を現したのか? 二人は疑問に思う個所もあるが――事情を聞く事にする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る