2-7

 特に受付で門前払いされることなく、そのままビルに入る事が出来た事には舞風まいかぜも驚く。

あのメールを信用したかどうかは別としても、最初は門前払いされると考えていたのもひとつあるのだが。

専用の開発ルームで話を聞くとの事で、そこまで案内される舞風とマルス。その途中でスタッフからは様々な声が聞かれた。

「まさか、本物のマルスがいるなんて」

「コスプレイヤーでは?」

「しかし、コスプレにしてはクオリティが高すぎる。あれだけの衣装を作るのも一苦労のはず」

「他のゲームでバーチャルアイドル化したキャラがいるじゃないですか。あの原理では?」

 バーチャルアイドルと言う単語が出てきた時は、こちらの目的が向こうにも知られているのでは――と舞風は若干焦る。

しかし、そうした本心がある事も承知で――瀬川せがわプロデューサーはこちらに接触したのだ。

あれだけ有名なゲームメーカーだと、あのような都市伝説にも似たような話に関心を持つとは到底思えない。

しかし、浮遊大陸やSNS上の動向を踏まえると、単純に放置するのが難しくなった可能性もあるだろう。



 開発ルームに入った早々、そこにいたのは瀬川プロデューサー一人だった。他のスタッフは出払っている――とはいうが。

周囲にも開発用のパソコン等が置かれている訳ではなく、通されたのは小規模会議で使う様な畳数畳程度の小部屋と言うべきだろう。

そして、話をしていく内に瀬川プロデューサーの表情は変わっていく。マルスもソファーには座っているが、積極的に話す様子がない。

「その話を信じろと言うのか? あのメールにもあったが」

「そうです。彼らは――ある人物によって呼ばれたと言ってもいいでしょう」

「それが蒼流の騎士そうりゅうのきしだと言うのか?」

「彼を倒すのに協力をしてほしい訳ではありません。自分がお願いしたいのは、別の話なのです」

 マルスの方は相変わらずと言うか、二人の話に割り込もうという姿勢も見せない。

逆に話を悪化させては、せっかくの情報を得るチャンスも水の泡になると考えたからだろう。

「自分がお願いしたいのは、マルスのバーチャルアイドル化です!」

 舞風が大真面目に頼み込んだ事、それはマルスをバーチャルアイドルにする事だった。

先ほど、ここで来る前に話が聞こえていたアレである事にマルスの方が逆に驚くしかない。

「それこそ、ますます現状では炎上商法と言われるのではないか?」

 冷静に話をしているようだが、瀬川プロデューサーの方も半分は笑いをこらえるのに神経を使っている。

マルスも最初は驚いたのだが、次第に呆れているようにも見え始めていた。

「ソレは向こうもいっしょでしょう? 特にガーディアンが――」

 舞風が自分のスマホを片手に瀬川へ見せた物、それは蒼流の騎士である。しかも、騎士の鎧を含めた細部が若干異なる意匠だったのも、その証拠だ。

明らかにこちらも便乗商法と言われても――と言う物。実際、変身していたのはガーディアンの一人と言うのも動かぬ証拠になる。

「――少し考える時間をきれないか。こちらが単独で決めていいような案件ではないのは分かった」

 見せられた画像のガーディアンには見覚えがない訳ではないのだが、事実確認を含めて単独で動けない。

まずは情報を整理し、それから改めて話をするという形で調整する事を伝え、今日の話を終えた。



 舞風とマルスがビルを出てから数分後、瀬川はある人物からメールが来ていた事に気付かなかった。

その際は話をしている最中というのもあったが。差出人は、あるゲームの開発スタッフらしい。

「これは――?」

 添付されていた画像、それは全長二〇メートルにも及ぶような巨大ロボットである。

数日前には巨大ヒーローの目撃情報がSNSで拡散していただけに、これも同じ事例なのか――そう考えた。

「瀬川だ。お前の所でWEB小説作品のアニメを作っていたな」

『ええ。それが、どうかしたのですか』

 緊急で電話を賭けたのは、自分のゲームメーカーとの取引先にもなっている出版社だ。

その担当にある物を確認する為、スタッフが送ってきた画像を電話主のパソコンへと転送する。

「その画像の巨大ロボット、確かWEB小説から出版が決まった作品に出ているという話だったが――」

『確かに間違いないです。巨大ロボットヌァザ、あの小説に出ている主人公の機体ですが、それが何か?』

 間違いはないという確認が出来た上で、瀬川は一呼吸を置いて、担当編集へ話をする事にした。

こればかりは、向こうの意見も参考として聞く必要性があったからである。

「もしも、これがゲームの開発中画像の流出などではなく、現実に姿を見せていたとしたら? どう思う」

 瀬川の話を聞き、担当編集の男性も言葉を失った。あまりの出来事に、数秒ほどの思考が飛んで行ったほどである。

『これ、場所は草加市ですよね。ARゲームプロジェクトでは?』

「だったら、権利関係で許諾が得られている案件を調べれば分かるはずだろう」、

『それって、どういう事ですか? 個別の二次創作案件とでも?』

「これが二次創作だったら、明らかにSNSでここまで話題にはならない。掲示板等で炎上して終わりという事もある」

 瀬川の方は本気だった。担当編集の方も色々と疑問に思う個所はあるが独自に調べる、と瀬川には伝える。

編集も疑問に思う個所はあるが、別のWEB小説を担当している編集などにも情報を集めてほしいと指示をした。

他の作品も同じような事例に巻き込まれていないか、と。下手に炎上でもすれば、それこそ出版社には損害物と言えるからだ。

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