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 マルスがテレビのチャンネルを変えたわけではなく、番組が切り替わったのには別の原因があった。

「お待たせ――って、どうしたの?」

 舞風まいかぜがペットボトルの紅茶を手にして姿を見せたが、マルスのリアクションはそれどころではない。

テレビを指差しているのだが――それを見て舞風は若干状況が呑み込めなかった。

「テレビ? ああ、そう言う事ね」

 舞風は部屋の時計を確認し、状況を理解した。別の番組を録画する予定だったので、テレビの番組が切り替わったのだろう。

元々、あの番組自体は再放送という事情もあったが――それを一種の放送事故とでもマルスは思ったのかもしれない。

(そう言えば、あれはレッドカイザーだったわね。一体、何の接点があるのか)

 マルスが目を覚ます前、SNS上で様々な情報を見ていく内に舞風は何かを探ろうとしていた。

マルス以外にも他に鍵を持っている人物がいるのか――という箇所を。しかし、SNS上ではマルス以外に情報がない。

仕方がないので、そのマルスに関しても知っていそうな有力人物に接触しようとメールを送ったばかりだった。



 草加市内のゲームメーカー、そこでは様々なゲームの会議が行われていた。ただし、会議の方は終了間近な物が多い。

その理由は終業時間もあったのである。既に午後五時を過ぎており、一部の制作班以外は帰宅準備をしていた。

「瀬川さん、このメールを――」

 男性スタッフが帰宅準備をしていた瀬川せがわを呼び止め、タブレット端末を片手にメールの内容を見せる。

その中には、メッセージと共に一枚の写真が添付されていた。

「ウイルスの類は入っていないのを確認したのですが、これは――いたずらでしょうか?」

 スタッフも写真を見て、これがフェイクだとしたら――とも考えたが、ウイルスの類はチェックされていない。

メーカーのサーバー等をハッキングしようと考えたとしても、草加市内のサーバーはセキュリティが非常に高いので、海外の有名ハッカーでも太刀打ち不能だろう。

「待て。これは、まさか――な」

 瀬川もメッセージを見て、疑問には思った。その内容は明らかに自分達が調べようとしていた存在を知っている。

突如として現れた浮遊大陸、マルスと名乗る勇者、更に言えば大小問わない規模のSNS炎上も同じタイミングだ。

「しかし、この時間だと――」

 男性スタッフは既に会社の就業が近い事もあって、この人物との接触は翌日にするべきと進言する。

瀬川の方も、調べる事は色々とあるだろうが――この人物と早めに接触し、謎を暴きたいと言うのはあるかもしれない。

「とりあえず、この人物が尋ねてきたら通すようにしておいてほしい。受付などにも根回しを頼む」

 瀬川はメールの人物と接触する事を決める。メールの差出人は名無しとかだったら応じないだろう。

しかし、瀬川が応じると考えたのには理由があった。

(舞風、まさか――な)

 瀬川は舞風と言うハンドルネームに覚えがある。WEB小説サイトで何か書いていたような――と。

内容までは記憶していないが、舞台は現代で――ドールかフィギュアによるバトル物だった気配もする。

(もしかすると、マルスとの関係以外にも何か聞き出せるかもしれない)

 一連の事件は、舞風が何かを知っている可能性が高いと舞風は思う。

しかし、本当に舞風が犯人だったとして、まとめサイトで舞風の名前を見ないのはおかしい。

それを踏まえると、まだ何か見落としている者があるのも否定できないだろうが。

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