1-7
周囲でLED街灯が点灯し始めた午後四時頃、マルスは別のARゲームフィールドにたどり着くも、またもや同じようなゲーマーに襲撃された。
おそらく、何処かで自分の噂が流れているだろうとは考えている。多少の現代知識も戻ってきており、これがSNSによる物だとも把握する。
襲撃と言っても彼らのスキルは先ほどの三人組と似たような物であり、競合プレイヤーではない。
理由は様々あるだろうが、それを考えていても打開策にはならないだろう。
(明らかに劣勢と言うべきか)
マルス自身に怪我はない。むしろ、転移前の負傷が全て治っている事に関しては不思議に思った。
それでも消耗したスタミナを回復させる手段がないのが、現状で最大の弱点だろうか。
「あのゲームフィールドで感じた事。まさか――」
案の定というか、スタミナが限界を超えていた。小休止すれば回復する事は分かったが、それが出来るフィールドがない。
今の自分に安息は許されないのか? しばらくして、再びマルスはフィールドというか舗装された歩道に倒れ込んだ。
しかし、倒れたマルスを認識できる人物が周囲にはいない。ARゲームをプレイする為には特殊なガジェットが必要で、それがないとフィールドも認識出来ないのだ。
それ自体をマルスが知っていても伝える手段もゼロに等しいので、通りかかる人に声をかける事も出来ない。
(このままでは、マイアも――)
薄れていく意識の中で、マルスは飛ばされる前の世界にいたマイアの事を思い出す。
帝国軍の攻撃を受けている途中で飛ばされたのを踏まえると、今は帝国に捕まった可能性も否定できない。
それだけが、彼にとって心残りだった。
(まさか? マイア――)
意識が遠のく状況で、マルスは目の前にマイアと思わしき人物が通りかかったのが見えた。
そう見えるだけの幻影とも否定できないが、それに手を伸ばしていたのは事実だろう。
次にマルスが目を覚ましたのは、ベッドの上だった。周囲を見回すと、色々な機械が置かれているように思える。
しかし、その機械は自分にも見覚えがある。異世界転移する前にも似たような物に触れていたからだ。
(パソコン、テレビ、録画用のプレイヤー、それに――)
専用デスクの上にはパソコン、テレビもラックに収納されている。液晶テレビなのだが、あまり大きなサイズではなさそうだ。
部屋のイメージは綺麗ではある一方で、気になる物も飾られていたのだが、それに手を触れようととした瞬間――。
「どうやら、目覚めたみたいだね」
ベッドで横たわっているマルスの目の前に姿を見せたのは、パーカーのフードを深く被った人物だった。
被り方が相当のようで、素顔を見せたくないのだろうか? 部屋の中でも目は見えない位にフードを被っている。
「ここは?」
「私の自宅だよ。倒れている君を見て、ここまで運んできた」
「運ぶ? どう考えても鎧の重量は――!?」
「鎧? 着ていなかったように見えたけど、何か?」
やり取りをしていく内に、マルスは重要な事に気付く。自分は鎧を着ておらず、軽装の服を着ていたのである。
あの時も――
飛ばされる前に感じていた事が、ここでは何も感じない。むしろ、これが記憶障害の原因なのだろうか?
「君は一体?」
色々と混乱はしているが、マルスは目の前の人物に名前を尋ねる。マイアなのか確かめるのに『君はマイアなのか?』という言葉は出なかった。
しかし、次の瞬間には目の前の人物が笑い出す。一体、どう返せばよかったのか?
「やっぱり、こちらの考えている事に狂いはなかった」
そして、マルスの目の前の人物は深く被っていたフードに手をかけて――。
(マイアにそっくりだ)
その顔を見て、確かにマイアとは似ているとマルスは思う。しかし、決定的に違うのは服装だけではない。
それ以外にも、彼女には決定的な違いがある。それは――。
「私の名前は、そうだなー―舞風と名乗っておくか」
あのマルスなのは間違いないが、本名を名乗る訳にもいかない。
彼女は、ハンドルネームである
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