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 公園の捜索をしていたガーディアンも撤収し、公園は元に戻った――とは若干言い難いが、物騒な雰囲気は消えている。

ARゲームフィールドは、大抵がプレイ中はギャラリーが集まって物騒な雰囲気にも似たような空間になる、とは言われているが。

(ここは違う日本。そして、あの大陸へも――)

 公園から若干離れた整備されている歩道、そこで若干足を止めて空を見ていたのはマルスだった。

彼は、蒼流の騎士そうりゅうのきしから告げられた事実に信じられないような状態である。

『その鍵が七つ揃えば、願いをかなえる事が出来る。あの浮遊大陸にも行く事が出来るかもしれない』

 蒼流の騎士は、あの大陸と言った。マルスの飛ばされた世界には名前があり、それに一切言及しなかったのである。

それは蒼流の騎士がこちらの事情というか大陸の名前などを知らなかった事を意味しているだろう。

更に付け加えれば、あれがホログラムの類だとすると同じような事を他の六人にも話した可能性が高い。

何としても、他の誰かよりも七つの鍵を集めて浮遊大陸へ行き、真実を確かめる――それが今の目的になる。

(だが、今は――)

 マルスの意識が若干遠のく。その原因は不明だが、体力が減っているではないと分かる。

自分の左手を見ると、それはここへ飛ばされる前とは違う状態になっていた事に驚くしかない。

「何だ、これは」

 青いノイズにも似たような物の影響で、左手が消えかけていたのである。まるで、あの時飛ばされた時の再現だ。

そして、その手を見たと同時にマルスは気を失った。現実から離れ過ぎた事が連続し、精神的にも致命傷を受けたのかもしれない。



 例の動画が拡散し、それに関するフェイクニュースやSNS炎上――様々な事件が起きている中、対応に追われている場所があった。

それは草加駅近くにある五階には満たない高さの高層ビル、そこに拠点を構えるゲームメーカーである。

対応に追われる理由は簡単だ。一連の浮遊大陸、動画に映し出されていたマルスと思わしき人物――これを踏まえれば、お察しだろう。

電話対応は一切行わない会社なので、クレームの電話ばかりで作業が進まないと言う事はない。

 しかし、苦情のメールは千通を超える規模で来るので、それの対応が大変だろうか。

その一通を会社用ノートパソコンでチェックしていたのは、該当ゲームのプロデューサーである。

「文面が一緒の物は、同じ回答で済ませれば何とか対応できるはず。他のゲームでトラブルが起こる方を懸念すべきだろう」

 身長は他のスタッフと比べても少し高い程度、百七十位か。青をベースとした色の背広を着ているのだがネクタイはしていないようだ。

彼はプロデューサーと言う立ち位置だが、ゲームへの関与具合はあまり高いとは言えない。他のゲームでも同じ事だが。

「しかし、SNS上のニュースに踊らされてはまずいのでは?」

「確かにフェイクニュースを鵜呑みにすれば、それこそ危険だろう。しかし、我々は実際に見た訳ではない」

「アレを動画では見ましたが」

「そうだ。実物を確かめてはいない。動画ならば、容易に編集や加工が出来る。ARゲームのプレイ動画では制限されているが」

「実際にプレイ動画経由の物とは限らない、と」

「まずは正式なソースが欲しい所だが」

 プロデューサーとスタッフのやり取りは、他のスタッフも聞いてきた。確かに自分達がその場面を直接見た訳ではない。

まずは、自分達が誤った情報を真実と発表し、更なる炎上を起こさないようにするのが重要だろう。

(どちらにしても、まずは様子を見なくては)

 背広の胸ポケットにネームプレートがあり、そこにはプロデューサーである事と瀬川せがわという名前が確認出来る。

瀬川としては一連の事件と今回の一件が関係しない事を祈りたい所だろう。

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