第466話
「ロピ……チル……リガス……じゃあな」
俺は少し前を走る三人を見ながら小声で呟く。
そして、皆んなとは全く違う方向に俺は走る。
「オラオラ! 俺を追って来いよ!」
効果があるか分からないが、無意味にスキルを発動して、モンスター達を誘き出す。
「よしッ! 釣れたな」
ロピ達の方では無く、殆どのモンスターが俺の方に向かって来たのが見えた。
「お前も来るのかよ。はは、まぁその分三人が生き残れる様になるだろうし、良いか」
後ろからは、小型だけでは無く変異体も此方に向かって追って来ている。
そして、モンスター達が方向転換した事により、皆んなが俺の行動に気がつく。
「はは、ロピの声デケェーな」
リガスに抑えられながらも、ロピは暴れて俺の方に手を伸ばしていた。
「ん? チルの方は少し理解が追いついてない感じか?」
一方、妹のチルは目を見開きながら、こちらを見ていたが、驚きのあまり固まっている感じだ。
「はは、これは相当恨まれるかもな……だが、三人が生き残りさえすれば良いさ」
俺は……ただ逃げる事に徹して後ろのモンスター達を少しでも皆んなから引き離せばいい!
全力で足を動かし、モンスターから逃げる。
「よし、体力の方はまだ大丈夫そうだな」
とにかく、距離を稼ぐ為にひたすら逃げてやるぜ!
追い掛けて来るモンスターが小型という事もあり、振り切れはしないもの、追い付かれる事も無い。
「もしかしたら、全力で走れば振り切れるか? ──いや、無理だよな……」
もしかして、生き残る可能性があるかも? と期待するが、その望みを変異体が許さなかった。
変異体は激しく転がり俺の事を追って来ている。
わざとなのか、周りに居る小型達と同じスピードで俺の後ろに張り付いていた。
「遊んでやがるのか?」
一度スピードが付けば、俺なんて直ぐに追い付ける筈だが、変異体はジックリと痛ぶるつもりなのだろうか?
「どっちにしろ、俺は逃げるだけだな」
一人という事もあり、自由に逃げられるのは俺にとって大きかった。
時には木の上に登り逃げたりと、一人という身軽さが最大限に生かせる。
しかし、一人で逃げる為の最大のメリットは他にあった。
「はは、まさかこんな状況を想定して教えてくれたわけじゃ無いよな?」
俺は背後から時折、急かす様に攻撃して来る変異体の攻撃を避ける。
「先読みが無かったら、今頃ペチャンコに潰されていたね」
そう、一人になって最大のメリットは先読みである。
複数で逃げていた時はあまり役立たなかったが個別で有れば別だ。
「全て読み切ってやるぜ!」
シクの教えには何度も助けて貰っている。
そして、今回は先読みだけでは無く、親としても俺はシクに手本を見せてもらっていた……
「はは、まさかあの時と同じになるとは──それも、今回は俺がシク側なんてな……」
俺はモンスター達から逃げながら感傷に浸る。
あの時の俺は何も出来なくて、ただシクに迷惑を掛けているだけであった。
今思えば、シクより歳上なのに俺はシクに対して何もしてあげられなかったな……
俺がこの世界に転生して、誰かに捨てられて……それからシクに拾われた。
シクは俺の事を自分の子供の様に育ててくれ、タップリと愛情を注いでくれたな。
そんな俺がロピとチルを引き取り、同じ様に愛情を持って育てた──最初はシクの真似事だったかもしれないが、今は違う。
今では、俺にとって家族そのものだ!
「シクにも三人を合わせたかったな……」
死を覚悟している為か、過去の事をやけに思い出す。
そして、頭の中では最後のシクの姿が浮かび上がった。
それは、夢でも何度も見た光景──俺の居眠りでモンスターが近付いて来るのが分からず、逃げる時である。
最終的には、俺の体力が保たないと思ったシクが自身が囮になり、最初で最後の笑顔を見せてくれた時……
俺は何も出来ずに、ただただシクの背中を見る事しか出来なかった。
「あの時程、悲しく、自分を不甲斐ないと思った事は無いな……」
そして、ふと俺の頭の中にはロピとチルの顔が浮かび上がる。
二人の表情は涙でグチャグチャになっており、それはそれは酷い表情であった。
何故、そんな表情をしている? と考えると同時に答えは出てくる。
「あぁ……あの時の俺と一緒って事だよな……」
はは、そんな悲しい表情するなよ……って言っても無理だよな……
頭の中に浮かぶ二人に問い掛ける俺は、なんだか心がモヤつく。
それからは、繰り返しロピやチル、リガスの思い出がフラッシュバックする様に頭の中に蘇っては次の思い出に切り替わる。
そして三人の悲しそうな表情になり、最終的には、幼い頃の俺が悲しそうに一点を見ている姿が思い描かれた……
「はは、ダメだな……」
自分の顔を一発殴る。
「俺はダメな親だよ……自分が味わった悲しみを子供達にも味わせるなんて……」
もう一度、顔を殴る。
「俺はあの時、違った意味でシクの後を追おうとした……そんな気持ちをロピやチルにも味わさせる気か? ──いやッ、そんな思いはさせちゃダメだ!」
自分の心の奥にある着火剤に小さい火が付いた気がした。
「俺は……絶対に戻るッ」
心の着火剤はどんどん燃え上がり、今では、ちょっとや、そっとの風ではかき消えない程まで燃え上がる。
「ロピ、チル、リガス! 待ってろよッ、絶対帰ってやるからな!!」
こうして、俺は三人の元に再び帰る為、背後から追って来ているモンスターから絶対逃げ切ると決意する……
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