第465話
「「え?!」」
私と、姉さんは同時に声が出てしまう。
その様子を見て、私は頭が真っ白になり、訳が分からなくなってしまった。
自分の頭の中には、なんで? と言った言葉がグルグルと回る。そんな私と違って姉さんは直ぐに声を上げる。
「お兄さん、待って! なんで、そっちにいくの?!」
そう、アトス様が何故か急に私達とは違う方向に進み始めたのだ。
理由は……? そんなの決まっている……私達を助ける為だろう。
「お兄さん、行っちゃ嫌だ!」
姉さんは、直ぐにアトス様を追うとする。そんな姿を見て、私も慌ててアトス様を追う為に方向転換するが……何故か私も姉さんもリガスに止められ、両脇に抱えられてしまう。
「な、なに?! 魔族さん離してッ!」
「リガス、離して!」
「なりませぬ……」
私達の慌てた様子とは違い、リガスは妙に落ち着いていた。
「魔族さん、お兄さんが、行っちゃうよッ! 離して!!」
「なりませぬッ、ロピ殿!」
「嫌だッ!! 離せッ!!」
姉さんも私もリガスの腕の中で大暴れするが、私達の拘束が緩む事は無い。
そして、アトス様はどんどん私達から離れて行き、私と姉さんは、ただただ大声を上げてアトス様を呼び、手を伸ばす事しか出来なかった……
アトス様は恐らく、このままでは全滅すると思い、囮になったのだろう……それは言われなくても分かる。
そんなアトス様の作戦は見事に成功し、殆どのモンスターがアトス様の方に向かって行く──そう、変異体さえも……
私達を追って来ているモンスターも居るが、微々たるもので数体が私達を追って来ているが、私と姉さんとリガスが居れば、いくらだって対応出来る数である。
私は、いくら暴れてもリガスの拘束から逃げられない事を悟り、今では抵抗すらして無い。
だが、姉さんは未だアトス様を追い掛ける事を諦めていない様で、必死にリガスからの拘束から逃れる為に暴れまくっている。
「魔族さん、離せッ!! 私はお兄さんを助けに行くッ!」
「ダメですぞ……それではアトス殿の作戦が無駄になってしまいます」
「作戦ってなに!」
姉さんは、頭では分かっているのだろう……歯を食いしばり、悔しそうな表情を浮かべている。
「作戦って……なんなの……? 私達を救う為?」
「そうで……ございます」
「お兄さんは、また私達を助ける為に犠牲になったの……?」
「そうで……ございます……」
アトス様は、いつだって私達を優先している。以前も、自分の片腕を犠牲にしてまで私達を救った。
自身が死ぬ事なんて、考えずに身体が勝手に動いていたと言っていた……
「魔族さん……」
「はい?」
「お兄さんは、助かるよね……?」
「……」
リガスが言葉に詰まる。
「分かりませぬ……本来であれば変異体は我々の方を追って来る筈だったのですが……」
変異体は私達では無く、迷わずアトス様を追って行った。
「お、お兄さんなら、逃げ切れるよね?!」
「……」
「だ、だってお兄さんなんだよ……? 私達の知っているお兄さんは強いよ……?」
私もリガスも……そして姉さんも本当は分かっている。
アトス様が生き残るは厳しいと……
まず、アトス様にモンスターを倒す為の攻撃手段が無い。そして、モンスターの体力は無尽蔵であり、人間族のスピードでは、とてもじゃ無いが振り切れないし、体力も保たずにいずれは捕まるだろう……
何よりも、変異体だ……あの変異体は転がっている時間が長いほどスピードも攻撃力も上がる為、スピードが付いてしまえば、小さい木々であれば何の障壁にもなら無いだろう。
「私が弱いからお兄さんは囮になったの……?」
「ロピ殿だけではありません……私達三人が弱かったからです……」
「ゔぅ……おにじゃん……ぅぅ……」
私は驚いてしまう。それは今まで生きていて、姉さんの涙なんて見た事無いからだ。
どんな状況でもニコニコと笑い、私を元気付けてくれる姉さんが、今では私の前で涙を流していた。
それと、同時に私も悲しくなり、涙がボロボロと出てしまう。
「ゔッ……アトス様……ゔぅ……」
私と姉さんがリガスに抱えられたまま、涙を溢す。
「お二人共、悲しいの分かります。ですが、考えなさい」
いつものリガスの口調ではあるが、どこか違う。
「アトス殿は何を望んで、あの様な行動を取ったか考えなさい」
アトス様が何を望んだか……? そんなのは決まっている。
「「私達を救う為」」
「正解です。では、アトス殿が望んだ通りにするには、あなた達二人はこのままでいいのですかな?」
「「良くない!」」
「宜しい。では、我々三人がする事は何ですかな?」
「「生きる事!」」
「ふむ。どうやら分かっている様ですな。では、最後です」
リガスが私達の事を順番に見て、呟く。
「この状況から生き残るには何をすべきですかな?」
「「モンスターを倒す事!」」
「ほっほっほ。正解でございます」
そう言うと、リガスの拘束が解ける。今からアトス様の所に向かっても絶対追い付けないくらい差が離れてしまっている。
だが、リガスのお陰で今更、アトス様を追う様な事はし無い。
何故なら、アトス様がそんな事を望んでいないからだ。
「では、お二人共、準備はいいですかな?」
「大丈夫だよ!」
「大丈夫!」
「ほっほっほ。では我々を追って来ているモンスターを倒して、まずは村に帰りましょう」
こうして、私達はアトス様の望み通り、生き残る事に全力を出す……
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