第419話

 ヤバイ……と思った時には既に身体が動いていた。


 中型はある一人に攻撃を加える。その人物は……ロピである。


 恐らく、中型は自身を倒せるのはロピだけだと推測し確実に始末出来る機会を伺っていたのだろう。


「ロピッ!」


 ロピはいきなりの事で反応が出来ていない。

 それは全員同じで、リガスが声を上げたと思ったら既に中型は目の前にいた。


 皆は反応も出来ずにロピが攻撃される所を見ている中、俺だけはロピが近くに居たという事もあり、なんとか反応する。


 間に合え……!


 周りの景色がゆっくりと動くのを感じる。


 一歩でも早くロピに近付こうとするが、俺のスピードは変わらない。


 でもなんとか、ロピに手が届く範囲まで移動出来た俺は素早くロピを中型の攻撃から守る為に抱きしめる。


 そして、ロピを抱きしめたと思った次の瞬間は背中に強烈な衝撃が襲い、ロピ共々吹き飛ばされた。


「──ッいつ……」

「お、お兄さん?!」


 俺とロピはボールの様に飛ばされる。


 そんな様子を見たチルが慌てる。


「アトス様! 姉さん無事ですか?!」


 少し離れた場所からチルの心配する声が上がり、問題無い事を伝えたいが、中型の攻撃を食らった俺は口を開けずに居た。


「お兄さん、無事?!」


 地面に横たわり、苦しそうにしていると直ぐに近寄って来て、俺の様子を伺うロピ。


 中型の攻撃を直撃した俺は、なんとかして立ち上がろうとするが、出来なかった。


 クソ……動けねぇ……


 あまりの攻撃の威力に起き上がる所か指一本動かす事も出来ないでいた。


 そして、非常にも中型の攻撃は続いた。

 ロピを仕留め切れなかった中型は直ぐに移動して再びロピに攻撃をする。

 しかし、次の攻撃は誰にも当たる事はなかった。


「ふむ。流石にその攻撃は通しませぬッ。カネル!」


 中型の強烈な一撃を抑え込むリガスに、驚いた様子の雰囲気を見せる中型。


 更にリガスは続ける。


「貴方はこのテリトリーから出て行って貰います。オーハン!!」


 リガスの第二の盾が発動し、中型を吹き飛ばした。


 中型自体にダメージは無いが、自身より何倍も小さい者に吹き飛ばされた事に更に驚く中型。


 その間に他の者達が吹き飛ばされた俺達の所まで集まって来た。


「アトス様、姉さん無事ですか?!」

「チ、チルちゃん! お兄さんが動かないんだよッ!!」


 倒れる俺の側でロピが泣きそうな表情で妹のチルに状況を説明する。


 それを聞いたチルも、また慌てて俺の様子を伺うが、ロピの言葉を聞いてオロオロするだけであった。


 俺は無事だぞ……


 意識がある事を伝えたかったが身体が動かない為、伝える事が出来ない。


「ほっほっほ。お二人ともアトス殿は大丈夫ですぞ、息をしておりますので無事です。それよりも今は前の敵に集中しなさい」

「「──!?」」


 リガスの言葉に二人は安堵し、そして立ち上がる。


「魔族さん、私は何したらいい?」

「ふむ。中型はロピ殿をかなり危険視しております、なので当たらなくても良いのでツェーンショットをお願いします」

「分かったよ! あの中型をビビらせればいいって事だね!」

「ほっほっほ。その通りですな」


 すると、ロピは腰にある中型のスリリングショットでは無く、背後に背負っている、自身と同じくらいの大きさが漆黒のスリリングショットを構えた。


「お兄さんをこんなにして、私許さないよ!」


 ロピは漆黒のスリリングショットを地面に突き刺す。

 そして、カウントを数え始めた。


「1……2……3」


 ロピが今、使用しているスリリングショットはドワーフ族の村長であるキルが貴重な材料を使用して製作した自信作であり、使用者のスキルランクを一つ上げるという、とんでもない武器である。


 その為、まだカウントを始めたばかりだと言うのにロピのスリリングショットからは、バチバチと煩いくらいの音が発している。


 そんなロピを離れた場所から様子を伺っている中型は、どうするか悩んでいるのか、動かずジッとしている。


「4……5……6」


 ロピのカウントが進むに連れて、音はどんどん大きくなって、既に耳を塞ぎたくなる程である。


「ふむ……ロピ殿、もうカウントを止めていいですぞ」

「7……えッ?!」


 リガスの言葉にロピはカウントを止める。


「どうやら、中型は去った様ですぞ?」

「え? そうなの?」


 ロピも含めて、皆が周りの様子を伺う。


「本当だー。中型の気配が消えたね?」

「うん。何も感じなくなった」

「どうやら、日が登って来たので部が悪いと思ったのでしょう」


 リガスが顔を上げる。


 リガスに続いて顔を上げると、そこには太陽が登り始め、次第に周りが明るくなって来た……


「ふぅ……やっと、逃げ切れたって事か? それとも、また俺達が認識出来ていないだけか?」


 ディングは未だ、戦闘態勢を崩さずに辺りの様子を伺う。


「ふむ。恐らく今回は問題無いでしょう」

「そうか……」


 リガスの言葉にディングはやっと構えを解く。


 そして、その後は俺の怪我もある為、一旦村に戻る事にした。


 怪我自体は大した事も無く、一日寝たら、いつも通り動く事が出来た。


 そして、このまま中型を、そのままにしとく訳にはいかない為、俺達は再度中型を倒す為にオークの村を出る事にしたのであった……

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