第420話

「お兄さん、あの中型を倒しに行くのはいいんだけど、また同じ様になるんじゃない?」


 まだ空が暗い内にドワーフの村を出た俺達。一昨日、例の傷だらけの中型に遭遇した場所に再び向かっている。


「そうだなー。かと言って、良い案も無いし、取り敢えず今日は見つからなかった場合は暗くなる前に安全な場所に退避する感じだな」

「流石アトス様です。なんて素晴らしい作戦なのでしょう……」


 ……いや、俺は何も作戦が思い付かなかったから、この様な提案をしたのだが、どうやらチルには、そう見えてない様だ。


「チ、チルちゃん? お兄さんは別に作戦なんて考えてないよね……?」

「何を言っているの? アトス様が言った事は、ちゃんとした作戦だよ? リガスもそう思うよね?」

「えぇ、勿論です。私、アトス殿が考えた作戦を聞いた時は脱帽しました」


 リガスは俺の方を小馬鹿にする様に見て来る。


 クソ……リガスめ……


「いやいや、お兄さんの言った事は、前に中型と遭遇した辺りに行って、中型探して、見つける事が出来なかったら暗くなる前に帰るってだけの、お粗末な作戦だよ?!」


 クソ……ロピめ……


 全く持って、ロピの言う通りなのだが、ロピに正論を言われると、なんだかな……


 それから、俺達は少し早歩きでジャングルを移動して空が明るくなって来た頃には以前中型と遭遇した場所に到着した。


「アトス、この前傷だらけの中型と遭遇したのはこの辺りだな」


 ディングの言葉に、皆が周囲に居ないか気配を読む。


「……気配を感じません」

「いなーい! 私の感知出来る場所には中型いないねー」

「俺もダメだな……分からねぇ」


 そして、俺達は最も広範囲まで気配を読む事が出来るリガスに視線を向ける。


 リガスは目を閉じて集中していた。そして少し間静寂が包み込む。


「ふむ、ダメですな。今は気配を感じませぬ」

「そっかー。魔族さんでダメなら今は居ないかもだねー」

「アトス様、どうしましょう?」

「とりあえず、移動するか」


 俺達は一先ず周囲を移動して誰かの感知に反応するまで移動する事にした。


「ディング、部活達の体力はどれくらいある?」

「そうだな──そこまで早く無ければ長時間でも、問題無いぞ」


 中型から逃げている時に、ディングの部下達は肩で息をして、とても辛そうだったが、ゆっくりであれば問題無いんだな。


「よし、それなら、緩いペースで周囲を見て回ろう」

「有難い」


 ディングと、その部下達が頭を一度下げた。


 それから、ゆったりとしたペースで俺達はジャングルを見て回る。


「全然いないねー」

「中型は隠れるのが上手いね」

「あはは、チルちゃん面白い事言うね」

「面白い事?」

「だってー、モンスターが私達に対してかくれんぼなんて、する訳ないしゃん!」



 それから、お昼になった所で、一旦休憩を挟む事にした。


「もうお腹ペコペコだよー!」


 リガスの料理は流石にこんな状況で作れるわけにはいかない為、オークの村を出た際に渡された弁当を頬張る俺達。


「あんまりおいしくないね──ッいて」

「姉さん、失礼なこと言ってはダメ。作った人に失礼」

「わ、分かった……」


 妹に注意されたロピはゆっくりと静かに召し上がっていた。


「さてと、残りも張り切って行くか」


 一度、自身の顔を気合を入れる様な感覚で叩き、立ち上がる。


「休憩は終わりだ。出発しよう」


 俺の言葉にゾロゾロと皆が立ち上がり再び移動を開始する。


「アトス殿、どうされますかな?」

「とにかく明るい内に中型を見つけないと、ロピの攻撃が当たらないから、午前中同様に移動して中型の気配を探ろう」

「かしこまりました」


 そして、俺達は午前中同様にひたすら、誰かの感知に中型の気配が反応するまで移動を続ける事にした。


 これで中型を見つける事が出来れば良いが、もう暫くして見つけられなかったら村に帰るしか無いな……


 それから更に時間が過ぎる。


「お兄さーん、そろそろアレなんじゃ無い?」

「そうだな……」


 ロピの言う通り、そろそろ戻らないとな……これ以上時間が経つとまた暗くなってしまうかもしれないなしな……


 皆が俺の判断を待っていると、リガスの表情が切り替わるのが見えた。


「アトス殿、皆さん! 感知に引っ掛かりましたぞ?」

「本当ー?!」

「流石、リガス!」

「よし、この時間であれば、まだ日没には余裕があるな! さっさと見つけて倒しちまおうぜ!」


 最後のディングの言葉に皆が頷いた。


 しかし、俺だけは何か違和感を感じるのであった。


 ……俺達が村に帰ろうとした瞬間に気配が察知出来たのは偶然なのか……? それとも、中型の……いや、流石にそれは考え過ぎか……


 こうして、俺達は村には帰らずこのまま気配がある方へと向かうのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る