第418話
「おいおい……追って来ているって中型がか……?」
「えぇ、その様ですな」
リガスは走りながら、後ろを向く。しかし、夜という事もあり、中型を視認する事は出来ない……
「ふむ。様子を伺っているみたいですな」
「様子を伺っているって……」
ディングの疑問も分かる……まさか、こんな事までするとは思わなかった。
中型であれば、恐らく一瞬で俺達に追い付き、攻撃する事が可能だろう──しかし、敢えて近付いて来ないで俺達の様子を伺っている。
これでは、まるでドワーフの村で起きた出来事と同じだ……あの時は中型二体の指示により小型が連携を取って俺達を追い回して目当ての場所まで移動させられた。
クソ……一体どうなってやがる、ここ最近、こんな行動するモンスターばかりだなッ!
前は、そんなモンスターなんて居なかったのに。
「なんか不気味だねー」
ロピがボソリと呟く。
恐らく、中型が近付いて来ない理由はロピが影響しているだろう……
あの、ツェーンショットを見た瞬間に中型は身を隠した。
「それ程、ロピの攻撃を脅威と感じたって事か……」
独り言の様に呟くが、チルには聞こえていた様で、こちらに近付いて来て口を開く。
「アトス様の言う通り、中型は姉さんのツェーンショットを見た瞬間に身を隠しました」
「あぁ、でも、まさか身を隠しながら俺達を追って来るとは思わなかったぜ……」
「気配は感じますが、何処に居るか全然分かりません」
チルもリガス同様に周囲を見渡しながら移動する。
獣人族は人間族よりも何倍も嗅覚や聴力が備わっている筈なのに、見つける事が出来ないようだ。
「アトス、これからどうするつもりだ! 言っとくが、あのモンスターを村には近付かせる訳にはいかん!」
それも、そうだろう──こんな化け物が村に行ったら、一体どれくらいの犠牲が発生するか想像も付かない。
「とりあえず、開けた場所か空が明るくなるまで、逃げ続けるしか無い──この暗闇だとロピの攻撃が当たらないッ!」
俺の声に頷いたディングを先頭に俺たちはジャングルの中を移動する。
俺達の一番後ろにはリガスがおり、中型がいつ攻撃して来ても良い様にと、大盾を構えながら移動している。
本来であれば自身と同じくらい大きい盾を持ちながら移動なんて無理だが、それが魔族であれば話は別である。
身体能力に優れている魔族であれば重い盾だろうが関係無く、盾を持ちながらでも俺達のスピードに余裕で追い付いて来ている。
暫く走ったが、リガス曰くまだ俺達の事を追って来ている様で、何処かに隠れながら移動している様だ。
俺には全く気配が読めないな……
「本当に、まだ私達の事を追って来ているのー? 私、全然気配が感じ取れないなんだけどー?」
「私も姉さんと同じで、今は中型の気配を感じません」
五感が優れている二人でさえ、中型の気配を感じ取らない様だが、魔族であるリガスにはハッキリと分かる様だ。
「とても厄介なやつだな……」
「はい。今までも頭を使って行動するモンスターはいましたが、今回は更に何か不気味さを感じます」
チルの言葉に同意だ……今回のモンスターは何か違う……明確に何処が違うとは言えないが不気味さが時間が経つに連れてどんどん増して来る。
恐らく、リガスが居なければ俺達は一度立ち止まって、休憩を取っていただろう。
そして、緊張の糸が切れた所で中型に襲われていた事が安易に想像が付く。
「改めて、リガスが居て良かったぜ……」
「ほっほっほ。そう言って貰えて光栄ですな」
それから俺達は更に村から離れる様に移動する。
「……ふむ」
後ろを向きながら、リガスは一度頷いた。
「どうやら、諦めた様ですな……」
「本当か?!」
リガスの言葉に一度立ち止まるディング。それに伴い、俺達も一度足を止めた。
「もう、大丈夫なのか?」
「恐らくですが撒いたと思われますが、もしかしたら、私が気配を把握出来る範囲から中型が抜けただけで、中型の方は我々をまだ観察されている可能性はありますな」
もし、そうであったらお手上げだ。俺達は中型が来ない事を願って、更に少し移動した後に一度休憩を挟む事にした。
体力的にまだ余裕がある俺達と違って、ディング達は限界な者が何人か居た。
少しの休憩で体力が戻ってくれればいいが……
「お兄さん、私お腹減ったー」
休憩中は特に何かする訳でも無く俺達はゆっくりと身体を休める。
ディングの部下達は余程疲れたのか、地面に倒れる様にした寝転ぶ者達ばかりであった。
そして、誰もが気を緩めた時にリガスが鋭い反応を見せた。
「──ッ!? アトス殿、来ますぞ!!」
リガスが気が付き声を上げた時には、既に俺達の目の前に中型が立っていた……
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