第373話
兵士に連れられて、私達は門内に入った。
門の中では人間族しかいない為、私達が前を通る度に露骨に嫌そうな顔をしたり、酷い者だと罵声を飛ばしたりして来る者達まで居た。
「くそッ……こんな鎖が無ければぶっ飛ばしてやるのによ……」
小声でググガが呟く。
口には出さないが皆がググガと同じ事を思っている様子だ。
「おい、そろそろカール様の所に到着するから、態度に気をつけろよ?」
兵士が私達を連れて来た場所は城内では無く、庭にある一つの小屋的な場所であった。
小屋の扉をノックする兵士。
「カール様、奴隷供を連れて来ました」
中に入る様に声が掛かり、私達は小屋内に入った。
小屋自体は、流石、王が住む城の中と言うべきか、中々に広い。
「ご苦労様、連れて来てありがとう」
カールが兵士を労う。
「後は、こちらでやっとくから、君は職務に戻って貰って構わないよ」
「で、ですが、いくら鎖で拘束されているとは言え危険では……?」
「あはは大丈夫、大丈夫。仮にこの十人が暴れたとしても俺だけで押さえ込む事が出来るから気にしないでいいよ」
上司であるカールに言われては逆らえる筈も無く兵士は一礼してから小屋を出て行った。
そして、現在小屋の中にはカールと私達だけになる。
「さてと……一応自己紹介をさせて貰おうかな」
椅子に座っていたカールが立ち上がり私達の前まで歩いて来る。
「俺は、遊撃隊総隊長のカールと言う、よろしくね」
柔らかい笑みを向けながら自己紹介をして来るカールだが、私達は事前にラシェン王の周りにいる者達は調べていたので、カールの名前だけは知っていた。
「俺が君達をプブリウスから引き取った理由は分かるかい?」
「……何故私達を?」
皆を代表する様にガルルが問い掛ける。
「ふふふ、やっぱり分からないよね──まぁ、聞いといてアレだけど、まだ教える気は無いよ」
「な、なんだそりゃ……」
カールの回答にググガが呆れる。
「冗談冗談! 君達の戦いを見てね──これなら俺の部下達の良い練習相手になると思ったのさ」
「練習相手だと?」
「そうさ。人間族同士では危険な練習でも、君達の様な他種族相手なら出来る練習もあるんだよ」
カールの言葉に全員が身構える。
「あはは、これも冗談さ! まぁ練習相手については本当だけど、非道な事はしないから安心してくれ」
そんな、カールの調子に乗せられて、結局、カール自身の本当の目的はあやふやな感じに流される。
私は気になる事をカールに聞いてみる事にした。
「あの時、何故私を止めた」
「ん? 止めたって言うのは君とあった時かい?」
「そうだ」
カールは首を何度か横に振る。
「そりゃそうでしょう。俺はラシェン王の護衛だよ? ──君が何をしようとしていたかは、分からないけど、とんでも無い殺気を放ちながらラシェン王を睨んでいたら止めるでしょ普通」
至極最もな意見だが……本当にそれだけなのか……? あの時のコイツの雰囲気は、そんな感じでは無かったぞ……
カールが一体何を考えているか分からないが、私の感が言っている。
……コイツには何かがあると……
それからは、私達の今後の事について話された。
「君達はこれから俺の奴隷として働いて貰う──住む場所はこの小屋を使ってくれ」
小屋自体は広く、私達十人が住んでも問題無いくらいには広い──どうやら使用人が住む為に作られたらしい。
「仕事については、さっきも言ったけど俺の部下達の練習相手をして貰いたい──特に、君達二人には」
カールが、ガルルとググガを見る。
「うふふ、カール様、よろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「私達女性陣は何をすればよろしいのでしょうか?」
リッテの言葉にカールは少しだけ考える素振りを見せた後……
「君達も同じだ。俺の部下の相手をしてくれ──俺の部下は情報収集部隊も居てね。その部隊には女性も居るから、その子達の練習相手をしてくれ」
「うふふ、承知いたしました」
それからは、細かい事を説明された。
例えば、私達だけで勝手に小屋を出る事を禁止されたり、小屋の外に出る時は必ず鎖を着けて移動するなどだ。
「まぁ、今思い付く範囲はこんなものかな──明日の朝から早速、練習相手になって貰うから」
そう言って、カールは部屋を出て行った──明日の朝に、また来る事を言い捨てて……
「シク様、やりましたね」
カールが小屋を出て、完全に気配が無くなった頃にガルルが話しかけて来る。
「これで、更にラシェン王に近付く事が出来ました」
「そうだぜ! このまま夜になったら城内に乗り込もうげ!」
「うふふ、貴方は本当にバカね」
「──ッバ、バカだと?!」
リッテが、ググガの悪口を言った後に真面目な表情を浮かべる。
「シク様、そこのバカの意見と被りますが私も夜に乗り込むべきだと思います──もちろん、それ相応の準備をしてからですが」
「わ、私も、リッテさんとググガさんの意見に賛成です!」
ふむ……確かに夜に忍び込んでラシェン王を暗殺すれば、この闇に乗じて逃げやすいかもしれない。
「そうだな……もうこの街に着いてから四日だ──早く暗殺しないと炎弾達が戻って来てしまうからな」
「では、準備出来次第作戦実行という事で?」
ガルルの質問に頷く。
そして、私達はラシェン王の暗殺の為の作戦について話し合うのであった……
一方、シク達と別れたカールは夜空を見上げなら庭をゆっくりと歩く。
「ふふ、これで第一段階は成功だね……よし、次は城内の地形について知って貰うかな」
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