第372話

 ガルル、ググガはコロシアムにて見事小型を撃破した。

 そんな二人を気に入ったカールは私を含めた十人の獣人が欲しいとラシェン王に訴えた。


 それにストップを掛けたプブリウスの主張も虚しく、私達の主人はラシェン王の一言でプブリウスからカールへと移った。


 そして現在、私達は鎖に繋がれて王国に向かって歩いている途中である……


「な、なぁ兄貴……」

「なんだ……」

「今の状況が把握出来ないんだが……」

「俺もだ……」


 コロシアムが終わり直ぐに所有権の変更を行ったが、私達からしたら王国側とプブリウスが何をしているか、全く分からなかった。


 ただ、プブリウスは最後の最後まで私だけは、どうにかならないかと頼み込んでいたがカールから一蹴されていた。


「うふふ、でも良かったわ──これで当初の目的に一歩前進したわね」

「そ、そうですよ!」


 私達の目的はラシェン王の殺害……


 この街に来るまでに、一体どの様にしてラシェン王に近付くか悩んでいたが、これで解決しそうだ。


 そんな話をしながら兵士達の後を着いていく私達。

 すると、前から兵士の声が聞こえて来る。


「開門ッ! ラシェン王の帰国である!」


 大声で門の前に叫んで、暫くすると立派な門がゆっくりと開き始める。


 そして、グンドウとカールに守られているラシェン王がゆっくりと城の中に向かって歩いていく。


 私達も門の中に入ろうとすると、侮蔑の様な視線を向けて来る兵士に止められた。


「お前達は暫くここで待て。カール様に今後のお前達の扱いについて聞いてくる」


 そう言って、一人の兵士が門の中に入って行った。


「ここで暫く待つか」


 皆がそれぞれ思い思いの所に座り込む。


 そして、私は兵士達から声が届かない場所で、皆の前でラシェン王の殺害が出来なかった事に対して一度頭を下げる。


「皆んな、済まない。ラシェン王を殺せなかった」

「「「「──ッ!?」」」」


 私が頭を下げた瞬間皆んなが息を飲む気配を感じた。


「シ、シク様は悪くねぇーよ! なぁ、兄貴!?」

「あ、あぁ。ググガの言う通りです──シク様は何一つ悪く無いです」

「そ、そうですよ! シ、シク様が無理だったら、私達全員無理ですし!」

「うふふ。シク様は何一つ悪く有りませんわ」


 皆が気を使っているのが伝わって来る……


「次は失敗しない様にする」


 皆が口々に私が悪く無いから、これ以上謝らないでくれと気を使ってくれる。


 これ以上謝っても皆に悪いと思い話題を変える事にした。


「ガルル、ググガ先程の仕事見事だった」

「シク様、サンキュー! でも、疲れたぜぇ」

「シク様、ありがとうございます。情け無いぞググガ」


 ググガに対してガルルは、まだまだ余裕がありそうだな。


「ガ、ガルルさん……」


 キャリがガルルの目の前に立ち、話し掛ける。


「あ、あの、コロシアムお疲れ様でした! と、とてもカッコ良かったです!」


 労いの言葉を掛けたキャリは側から見ても分かる程、顔を真っ赤にしていた。


「うむ。ありがとう──私だけの力では無いが、そう言って貰えると嬉しいものだ」


 キャリにお礼を言うガルルにリッテが話し掛ける。


「うふふ。これだから鈍感な男は嫌ね……やっぱり男より女の子方がいいわね」

「リ、リッテさん! だ、黙ってて下さいよ!」

「うふふ、大丈夫よ──コイツは超絶鈍感だから、何言っても気付かないわ」


 リッテの刺がある言い方に頭を傾げるガルル。


「ググガよ、あの女は何故私にあの様な嫌味を言ってくる……?」

「いやー、俺も分からねぇ……気にしない方がいいぜ、きっと」


 そんな感じで城壁に背を預けて待っていると、先程の兵士が戻って来た。


「お前達、カール様がお呼びだ着いて来い」

「カールってあの優男の事か?」

「──ッ?! 貴様!! 今なんと言った!」


 ググガの何げ無い発言に兵士が突然と怒り狂う。

 そして、ググガの顔面を殴り飛ばした。


「ググガ!?」

「い、いてて……チキショウ……なんなんだよ」


 突然の出来事に反応が出来ない私達に兵士は言い放つ。


「貴様らみたいな奴隷が私達人間族に生意気な口を聞いているんじゃ無い! 次そんな言葉使いをしたら、こんなじゃ済まさんぞ」


 そんな、兵士の暴言に皆が怒っているのを肌で感じる。

 しかし、私達は手足共に鎖に繋がっている為、抵抗する事が出来ない。


「もう一度言うぞ? カール様がお前達を呼んでいる。奴隷は黙って着いて来い」


 先程の様な行動を見せられた私達は兵士の言う通り一言も発せずに着いていく事にした……


 そんな、私達を見て満足したのか兵士は一言だけ言い放ち歩き出した。


「へへ、そうだよ、奴隷はそれでいいんだよ」


 私以外の全員が兵士にバレない様に自身の唇を噛み締めて耐えている様である。

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