第311話

「マーズよ、今日は何の集まりなのだ?」


 リンクスとマーズは前回、人間族以外の他種族を全て奴隷にすると発表した場所に居た。


「はぁ……リンクス様、この前通達があったじゃないですか」

「そうだったか?」


 リンクスの言葉に呆れるマーズ。


「本日集まった理由は、どうやら炎弾のヘラデス様から発表がある様です」

「ほぅ──私のヘラデス様が何か発表を?」

「別に貴方のヘラデス様では無いですが、まぁあるそうです」

「ふむ。それは楽しみだ」


 腕を組みリンクスは大仰に頷くのであった。


 すると、後ろからある者に声を掛けられるリンクス。


「ははは、いつからヘラデス殿は貴方のモノになったのですかな?」

「──ッガバイ」


 どうやらリンクスはガバイの事が好きでは無い様で彼を認識した瞬間に顔を歪める。


 一方、マーズの方はゆっくりと頭を下げて挨拶するのであった。


「私いつも思うんですよ」

「な、何をだ?」

「貴方の、その能天気さがとても羨ましいと」

「──だ、誰が能天気だと?!」


 ガバイの言葉に顔を真っ赤にして言い返すリンクスであったが、その事にはマーズも同意なのか、ガバイの言葉に何度も頷くのであった。


 そして、リンクスが更にガバイに向かって言い返そうとした瞬間に太鼓の音が鳴り響いた。


「リンクス様──ヘラデス様が登場しますのでお怒りをお鎮め下さい」

「──ッく……」


 マーズの言葉を聞いて、リンクスはガバイを睨み付けるが、睨みつけられ本人は素知らぬ顔でヘラデスの登場を待つ。


 そして、以前ラシェン王が入場する様にヘラデスがゆっくりと歩いて行き王座付近で止まる。


 ヘラデスが止まると同時に太鼓の音色もピタリと止まる所を見ると、そういう所にも手を混んでいるのが伺える。


「おう、お前ら──今日集めたのは他でも無い」


 真っ赤なロングマントを着て、マントの色に負けないくらいの赤い目と赤い髪を見ると、彼女の二つ名である炎弾を連想させるだろう。


 そして、ただ全身が赤いだけでは無くリンクスが惚れる通り美しい顔の持ち主でもあり、また常に自分に自信を持っているかの様な表情でニヤリと笑っている。


「私は、ラシェン王の命により前哨戦とも言うか──少ししたらエルフ族の村に攻め入る予定だ」


 ヘラデスの言葉に驚く一同であったが、別に悲観な驚きでは無い様で、皆が高揚した表情をしていた。


「おー、ヘラデス様が出られるのか!」

「これで、エルフ族は終わりだな」


 あちこちから、声が上がる。


「私のヘラデス様が出向けばエルフ共なんて敵では無いな」

「はは、貴方の頭の悪い発言以外は私も同意です──ラシェン王はよっぽど早くエルフを奴隷にしたいのでしょう」


 ガバイとリンクスも周りと同じ様に、エルフ族の村に攻め込む事を楽しそうに話し合う──しかし一名だけ周りの様に楽しめない人物が居る。


──マ、マズイ……確かアトスさん達が療養しているのはエルフの村だ。早く知らせないと……


 マーズだけが、この場で唯一喜んでも無いし、嬉しそうな表情を浮かべて居なかった。


 そして、再びヘラデスが口を開く。


「出発はまだ未定だが各自出来準備をしとけ」


 ヘラデスの命令に全員が声をあわせて返事を返す。


 その返事に満足そうに頷くヘラデスは退場しようと足を動かすが何かを思い出したかの様に立ち止まる。


「そういえば、今回の前哨戦では人間族だけじゃ無く、他種族の奴隷も連れて行き戦わせる」


 ヘラデスの言葉に周りは首を傾げる。


「人間族にいち早く奴隷になりたいと言ってきた者達が二種族あってな──まぁその内の一種族は私が無理やり奴隷にしたと言うのが事実だが」


 何かを思い出す様に不敵に笑う炎弾。


「ヘラデス様、その二種族は何の種族なのでしょうか?」


 一人の男が質問する。


 そんな男の質問にニヤリと笑いながら答えるヘラデス。


「内緒だ──どっちにしろ決行日が決まれば再度この場で発表するからな、その時にでも紹介してやろう」


 何やら面白そうな表情を浮かべながらヘラデスは退場する。


 登場と同じ様に大きな太鼓の音をバックに姿を消したヘラデスを確認してから一同はエルフ達を奴隷にした後の話で盛り上がる。


「いやー、エルフが奴隷に売られる様になったら、どんな大金を叩いても買いますな」

「ははは、それは私もですな──今から何人のエルフを買おうか悩みますな」

「貴方は歳の割に元気ですな?」


 何やらエルフについて話しては居るが、奴隷にする目的は全員同じの様だ。


 そして、リンクスとガバイの方でも話されて居た。


「ふむ。あの美しいシャレを私の者に出来なかったからな──もしシャレが奴隷にされて居たら私が買い上げて御仕置きしないとな」


 頭で妄想を膨らませて居るのか、とても愉しそうに笑うリンクスにマーズが呟く。


「リンクス様は無理でございます」

「むっ──何故だ?」

「単純にお金が有りません──冒険者に全財産渡したのをお忘れですか?」


 その言葉を聞き隣にいたガバイが大笑いする。


「ははははは、貴方って人は本当に面白い──まさか冒険者如きに全財産を取られるとは。そして貴方みたいなのが、この場にいる事が驚きですよ」


 ガバイの言葉に又もや大きく同意の意を表す様にマーズは頷く。


 そして、マーズはアトスに近々人間族が攻めて来る旨の手紙を送った……


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