第310話 訓練

 現在、俺達はジャングルに居る。


 そこは、木々が目一杯生い茂っているが、ある一箇所だけ、電車が走り抜けたのでは無いかと思える程の面積がまる焦げ状態になっていた。


「やっぱり、何時見てもロピの撃った後はスゲェーな……」

「ほっほっほ。果たしてこれを撃たないとならない相手が居るかが謎ですな」


 リガスの言う通り、中型以上の存在が出ない限り撃つ必要性が無いよな。


「アトス様、ここでされるのですか?」


 チルが俺に聞いてくる。


「そうだな、ロピのお陰で視界も拓けているし、丁度良いだろう」


 今日は訓練する為にジャングルに来た。昨日、最古のエルフより付与スキルについてヒントを貰った為、実際試してみるのだ。


「そういえば、ロピは?」

「本日はエルフの友達と遊んで来ると言ってどこかに行かれました」

「ほっほっほ。もうお友達が出来たようですな」


 ロピすげぇーな。


 そんな事もあり、三人で訓練を始める。


 まぁ、リガスは訓練って言うより、俺達の為に付いて来てくれただけだな。


「チルはどんな訓練をするつもりなんだ?」

「まだ、分かりません……自分に、そろそろ限界が来ている感じがするので、少し戦い方の方向性を変えてみようかと思っています」


 第三者から見れば、チル自身、相当強い部類に入るだろうが、本人は何やら思い悩んでいる様子である。


「ほっほっほ。年頃ですな──私もチル様の為に手伝いますぞ?」

「ありがとう、リガス」


 ん? ……強くなりたいと悩むのは歳の問題か?


 良く分からない事を思いながら、チルは早速地面に座り込み、足を組み目を瞑る。


 どうやら、瞑想的な感じでこれからの自分を見直すつもりの様だ。


「さて、俺も何かやってみるかね」


 昨日言われた、最古のエルフの言葉を先ずは思い出す。


「えーと、確か……」


付与スキルとは線ではあらず、円である。


 しかし、付与スキルとは円でもあらず、本質は線と円を掛け合わせたものである。


 この本を読んだ者は、先ず円を意識するべし。


 そして円の後は再び線を意識するべし。


「と言う事は円を描く様にスキルを発動すればいいのか?」


 取り敢えず、やってみようと思い円を描くつもりでスキルを発動する。


「アタック!」


 赤いラインが浮かび上がるが、やはり一直線のラインが地面に敷かれるだけであった。


「これじゃ、いつも通りなんだよな……」


 まず、どうすれば円になるかが分からん!


 その後も何度も試すが一向に線が円を描く事は無かった……


 そして、気が付けば日が沈み掛かっているのに気が付く。


「そろそろ、帰るか」

「ふむ。そうですな、これ以上時間が経つとロピ殿が餓死しますな」

「分かりました」


 俺達は家に向かって歩を進める。


「チルは何か収穫はあったか?」


 あれから、ずっと座禅を組み、何やら考えていた様だ。


「いえ……何も思いつきませんでした……」


 少し落ち込むチルにリガスが慰める。


「ほっほっほ。チル様、慌てず強くなれば良いのです」

「うん──でも戦いが迫っていると思うと焦る」


 確かにチルの言う通りだな──一年後と言われても、実際にはあっという間に時間が過ぎるろうし……


「アトス様」


 チルが真剣な表情で見つめて来る。


「ん?」

「姉さんみたいに、私にも合う武器や戦い方ってありませんか?」


 チルに合う武器や戦い方か……


 何か無いか考えて見るが、今直ぐには思い付かなかった。


「うん──何か無いか考えて見るよ」


 すると、俺の言葉にチルは笑顔になってお礼を言う。


「ありがとうございます!」

「ほっほっほ。チル様良かったですな」

「うん!」


 嬉しい事があれば、直ぐに表情に出る所は、やはりまだまだ子供だな。


 チルの様子を見て無意識に頬が緩むのを感じる。


「ほっほっほ。やはり姉妹ですな、喜ぶ所はロピ殿とそっくりです」 


 リガスが話し掛けて来る。


「あぁ──そうだな」

「それでアトス殿に相談なんですがね?」

「ん?」

「私にも戦闘スタイルをお教え下さい」

「お前は、特に必要無いだろ……」


 俺は呆れた様子でリガスに言い放つ。


「ほっほっほ。それは手厳しい」


 リガスのいつものジョークに場が和むのを感じる。


「アトス殿の方はどんな具合なんですかな?」

「うーん、進展無しだな……」

「やはり、難しいですかな?」

「あぁ──今まで直線のラインしか地面に敷けないと思ってたからな、いきなり円と言われても、どうすれば良いか分からねぇ」


 実際、どうすれば上手い具合に円を描けるか分からないし、むしろ本当に描けるかも怪しい。


「まぁ、とりあえず気長にやってみようと思う」

「ふむ。それが一番ですな」

「アトス様、私も何か手伝える事があれば言ってください」


 こうして、俺達はこの後も毎日訓練を続ける。


 そして、別の場所では大きな動きがある事を俺達は、まだ知る由も無かった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る