第309話 シクとネーク 2

 ネークに乗せられて大勢の前で話し、疲れてしまった私は、直ぐに人の少ない所まで移動して座り込む。


「ふぅ……」


 すると、ネークが近寄って来て労を労ってくれる。


「シク様、お疲れ様です」

「あぁ──本当に疲れた」

「はは、申し訳無いですが、後数回は同じ事をして貰いますよ?」


 元から言われて居た事とは言え逃げ出したい気持ちになる。


「大体どれくらいの獣人族が集まる予定なんだ?」

「そうですね……」


 ネークは頭の中で計算しているのか、手に顎を乗せて考えている。


「かなり遠くの者達にも声を掛けましたから、獣人族の半数は集まると思われます」

「それは凄いな」


 ただでさえ、今見た人数ですら相当な数の筈なのに、まだ居る事が驚きである。


「これからどうする予定なんだ?」

「まずは、今日やった事を後数回程やるつもりですが、その後はシク様にもう一つお願いがあるのですが、宜しいでしょうか?」


 ネークが少し申し訳無さそうに聞いてくる。


「なんだ?」

「人間族の住処の偵察をして来て欲しいのです」

「偵察?」

「はい、戦力差がかなり有るのは分かるのですが、実際どれ程あるかを探って欲しいです」


 成る程、確かに相手の戦力を知るのは大事な事だな。


 私が考えていると、ネークが続けて話し掛けて来る。


「恐らく、何かあった時にシク様なら難なく逃げ出せると思いますので──少し危険かもしれませんが、頼まれてくれませんでしょうか?」


 ネークが頭を下げる。


「ネークよせ──今では獣人族を纏める者として、気軽に頭を下げるべきでは無い。一体誰に見られているか分かったものでは無いしな」


 私の声に頭を上げて、苦笑いするネーク。


「ははは、そんな器じゃ無いですが、いつ間にか纏める立場になってしまいましたね」


 ネークは最初、獣人族のリーダーになるつもりは無く、私になって貰う予定だったらしいが、それを私は断固として拒否をした。


 協力するのは別に構わないが、誰かを纏め上げるなんて出来る気がしないしな。


 私が拒否した為、しょうがなくネーク自身がリーダーになる事を決意し、今に至る。


「いつ、私は人間族の住処に向かえば良い?」

「申し訳無いですが、獣人達に白き閃光のお披露目が終わったら直ぐに向かって頂きたい」


 私はコクリと頷く。


「それと、もう一つお伝えする事があります」

「ん?」

「何やらエルフ族から手紙が届きました」

「手紙?」


 ネークが手紙を渡して来た為、受け取り読み進める。


 すると、そこには人間族が一年後に他種属を奴隷にする動きを見せていると書かれており、一緒に戦って欲しいと書かれていた。


「なるほど……ネークはどうするつもりなんだ?」

「一度様子見ですね──確かに我々も戦力が増えれば嬉しい限りですが、役に立たない者が増えても逆に邪魔なだけですからな」


 厳しい言葉の様に聞こえるが、その通りだと、私も思う。


 本来なら、あの時、デグ達とも一緒に逃げ出したかったが、人間族という事もあり、明らかに私達獣人族のスピードに付いて来れてなかった。


 体力が相当あるレギュだけなら、もしかしたらギリギリ着いて来れたかも知れないが、それでも私やネークのスピードには着いて来れないだろう。


 やはり、弱い者が居れば、その分強い者がフォローに回らなければならない──そういう事をネークは危惧しているのだと思う。


「分かった──エルフ達と手を組むかどうかはネークに任せる」

「ありがとうございます。しばらく様子を見て判断しようかと思います」

「あぁ、分かった」


 それから、これからの事をより詳細に詰めていく私達の所に何やら近付いて来る足音が聞こえた。


「「……」」


 私とネークは会話を止めて足音の正体が現れるのを待つ。


 すると、何やら会話する声が聞こえて来た。


「兄貴、早くしろよ!」

「慌てるな、ググガよ」

「確か、この辺に白き閃光が入って行く所を見たんだけどな」


 そして、声の正体が姿を表す。


 どうやら、獣人族の二人組の様だ。


「兄貴、居たぞ! 見ろよ、すげー雰囲気を纏っているぞ!」

「あぁ……流石はダブル持ちだ……」


 二人組の獣人族が近寄って来る。


「誰だ貴様らは」


 ネークの表情が険しくなる。


 その表情に一瞬二人の獣人族がビクついた。


「お、俺達はネークさんの呼び声に賛同して来た者だぜ──俺はググガ」


 そして隣にいる獣人も自己紹介する。


「私はガルルと申します。ネークさんと白き閃光の先程の言葉に感銘を受けまして一度対面したいと思い参りました」


 ガルルという者が一度頭を下げる。


「何故、後を追って来た」

「一度二人を、間近で見てみたいと思いまして」

「そうか──ならもう用は済んだな」

「いえ、お待ち下さい。ネークさんは勿論の事」


 一度言葉を切りガルルとググガこちらに向く。


「白き閃光を見て思いました──どうか私達に貴方様の手伝いをさせてくれませんでしょうか」


 そう言って二人は私を敬う様に地面に片膝を付く。


「私達は何故か貴方を見てから、貴方の手伝いをしたいと思いました」

「はは、しかも直接会ったら尚更だぜ──それに、不思議とアイツの匂いがするな兄貴」


 ググガが何やらよく分からない事を言っているが、兄のガルルに静かにする様に言われる。


 私がどうすれば良いか困っていると、ネークが話し出す。


「ふむ。丁度良いな」


 何やら一人で納得するネーク。


「お前達、スキルはなんだ?」

「私達は二人とも身体強化になります」

「部位は?」

「足だぜ!」


 その言葉を聞き、ネークは何度も頷く。


「ますます、好都合だ──よし分かった。お前達に任務を与える」


 ネークの言葉に二人は顔を上げる。


「白き閃光にはある任務を先程お願いした──その任務にお前達もついていきサポートしろ」


 任務の内容を聞き二人は頷く。


「だが一つだけ注意点がある。自分達がどうなろうと白き閃光だけは守り通せ、理由は分かるな?」


 二人は再び大きく頷いた。


「そういう事になりました白き閃光よ」

「いや、別に私一人で問題無いが」

「いえ、それでは流石に負担が掛かります──それに偵察には元から何人かサポートを付けようと思っていましたし、後で軽く試験をしますが、この二人なら問題無さそうです」


 一度二人に視線を向けると、お互い喜び合っていた。


「分かった……」


 こうして、人間族の住処の偵察には私とガルル、ググガと残り数人で向かう事になった。

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