第308話 シクとネーク

「シク様、お願いします」


 ネークが私に向かって話し掛けて来た。


 目の前には、今まで見た事も無い獣人族達が私を見ている。


 私はデグ達と別れてからの出来事を思い出す。


 あの時、デグ達にモンスターが向かわない様に私が囮になって、ネーク達に合流した。


 それから、ネークが人間族の王であるラシェン王の殺害を決意し、その為には私と言う存在が獣人族を集める為に必要だと言われ、協力する事にした。


「まさか、ここまで集まるとはな……」


 ネークはとにかく、獣人族達に手紙を送りまくり、ひたすら人数を集め続けた。


 どうやら、手紙には必ず私の事を記載していた様で、そこには獣人族にダブル持ちが現れた事と一緒に人間族を倒す旨が書かれていた様だ。


 長年に渡り、人間族に虐げられて来た獣人族は私という存在もあった事からか、どんどん人数が増えていき、今では一体何人の獣人族がネークの計画に賛同したか分からない。


 そして本日は、そんな集まって来た獣人族達の前に初めてのお披露目と言う事でネークより一言話して欲しいと言われた次第であった。


 改めて、目の前に居る光景を見るが、見える範囲は全て獣人族で埋め尽くされていた──しかも驚く事に、まだまだ居る様で、余りにも多く一箇所に集まるとモンスター達が集まって来てしまう為、何回か分ける様だ。


「別に、私が話さなくても良いんじゃ無いか?」


 あまりの人数に圧倒されてしまい、ネークに、やりたく無い意思を伝えるが、首を振られてしまう。


 はぁ……


 私は心の中でため息を吐き話す。


「私はシクだ──これからよろしく頼む」


 それだけ言うと一歩下がり、話はこれで終わりだと意思表示する。


 すると、少ししてガヤガヤと話し声が始まった。


 そして、ある一人の獣人族がこちらに向かって話し掛けてくる。


「本当にその人がダブル持ちなのかよ」


 その言葉に周りも頷く。


「そうだよな? 俺達は獣人族にダブル持ちが出たから、人間達と戦う事にしたんだぜ?」

「あぁ、ダブル持ちが居ないなら俺は降りるぜ?」


 何故、ここまでダブル持ちが重宝されるか、分からなかったので前にネークに聞いてみた所、どうやら獣人族に取ってダブル持ちは勝利の象徴と昔から言い伝えられていた様だ。


 なんでも、獣人族の歴史の中で大きな戦いには必ずと言って良い程ダブル持ちの存在が確認されており、その戦は全て勝利を納めている事から、ダブル持ちが入れば戦いに勝てると言われている。


 私から言ったら、そんなのはタダの偶然だろうと思うが、昔から親に言い聞かされて来た獣人族達は、その事を信じ切っている様子である。


 まぁ、その言い伝えをネークは私を使って利用し、この人数を集めたのだから、凄いな。


 私が本当にダブル持ちか疑問の声が上がり、どんどんと騒ぎが大きくなっていくのを見たネークは一歩前に出て言い放つ。


「皆、ここに居る白き閃光は本物だ!」


 ん? 白き閃光?


「今から、この白き閃光にダブル持ちな事を披露して貰う」


 そう言って、ネークはチラリと私の方を見る。


「披露しろと?」


 私の言葉にコクリと頷く。


「あぁ、分かったよ……」


 早く終わらせてしまいたい私は周りに見やすい様に、まずは拳に炎を纏わせる。


「まず一つ目の能力は拳に炎を纏わす事の出来る武器強化だ」


 ネークの解説を聴きながら、私に注目する獣人達。


「そして、もう一つの身体強化がこの白き閃光の二つ名になった由来だ、よく見ていろ!」


 成る程……私の白髪と身体強化のスピードを合わせた二つ名の訳か。


「白き閃光だなんて初めて聞いたぞ?」


 周りに聞こえない様にネークに質問する。


「はは、すみません──シク様と呼ぶより、白き閃光の方が周りも納得しやすいと思いまして」


 そして、ネークもまた周りに聞こえない様に、周りに見えない様に苦笑いする。


「では、シク様そろそろ」


 顔を引き締めたネークに頷き私は脚に力を入れる。


「ふぅ……」


 一呼吸置いた後に私は奥の方にある木の上に移動した。


 スキルを手に入れてから、結構経過したと思ったが、やはりまだ扱い切れていない様子だ。


 そして、先程までネークの隣にいた筈の私が突然と姿を消した事に、獣人達は驚いて居た。


「き、消えたぞ?!」

「ど、どこ行った?」

「ダ、ダブル持ちは本当だったんだな……」


 反応は色々で、驚いている者、喜んでいる者、そして私が何処に行ったか探している者まで居た。


「これで分かっただろう! 白き閃光はダブル持ちな事を」


 ネークの言葉が耳に入って居ないのか、ざわつきが凄い。


 そして、何人かがようやく私の姿を見つけた。


「お、おい! あそこにいるぞ!」


 私を指差した獣人から皆が私を視認した。


 そして、私は再びスキルを発動させてネークの元に一瞬で戻る──また、私が消えた事に驚く獣人にネークが話し掛ける。


「この、白き閃光が居れば、我々獣人族は人間族に勝てる!」


 その言葉に獣人達が反応する。


「あぁ、ダブル持ちが居るなら勝てるよな?!」

「そうだぜ! 獣人族の歴史ではダブル持ちが居た時の戦で負けた事ねぇーしな!」

「よっしゃー、滾ってきたぜ!!」


 本当に勝てるという認識が波紋を起こす様に獣人達に広がり、ここに居る全員がネークの計画に参加する意思を示した様だ……

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