第307話 深淵の森
「私が生きていて、一度だけドラゴンを見た事がある」
最古のエルフは懐かしむ様に目を瞑る。
「あれは、まだ私が若い頃だった、旅の途中に狩をしていた際に遠くから何かが動く気配がしてな」
「ドラゴンだったのー?」
「あぁ──大きなドラゴンであった。大きさはモンスターの中型くらいで、のしのしと移動して森の奥へ消えて行った」
「最古のエルフよ、それはどこら辺だ?」
シャレの言葉に目を開けた。
「あれは……深淵の森だな」
「深淵の森?」
俺の疑問にリガス以外の全員が皆首を傾げる。
「あぁ──ここから遠く離れた場所に深淵の森と言う一際草木が生い茂っている場所がある」
俺達よりは確実に長く生きているであろうシャレとニネットも知らない知識を最古のエルフはゆっくりと教えてくれる。
「その深淵の森の奥には、まだ誰も知らない未開の土地があると言われている」
「なんで、未開なんだ?」
「深淵の森付近はモンスターが大量にいるのだ──シャレから聞いたがお前達はドワーフの村付近にあるジャングルに行ったな?」
皆んなが頷く。
「あそこも、確かにモンスターが密集しているが、深淵の森に関しては、あんなものでは無いくらいモンスターが多い」
「そんなにかよ……」
「あぁ──まるで未開の土地に行かせない様に見張っているのか、または未開の森から来る何かを見張っているのか……」
最古のエルフは歯切れの悪い感じで言葉を止めた。
「まぁ、私が見たドラゴンは、その深淵の森に向かって進んで行ったな」
すると、リガスが口を開く。
「ふむ。チル様達に少し前、私が手も足も出ずにやられた話をしましたな?」
「リガスがまだ若い時?」
チルの言葉にリガスが頷く。
「関係あるか分かりませぬが、その者が居た場所も深淵の森の近くですな」
「えー? じゃ、魔族さんをコテンパンにした人は未開の土地の住人さんなのー?」
「ほっほっほ。それはまだ分かりませぬが、もしそうであればまだまだ人生楽しめそうですな」
「燃え上がる」
リガスとチルはまだ見ぬ強者がいる事に喜んでいる様だ。
どこかの戦闘狂かよ……
それから再び口を開く最古のエルフ。
「話を少し戻すが、どうやらモンスターとドラゴンは常に争っていた様だ」
「今、ドラゴンさんが居ないって事はモンスターにやられちゃったのー?」
ロピが質問する。
「本には、その事に付いて何も書かれて無いが、現状を見る限りモンスターの方が強かったのだろうな」
他にも本のページは何ページにも続いていたが、残りは全て字が掠れて読め無い様だ。
「この本から読み取れるのは、ここまでだな」
最古のエルフは本をゆっくりと閉じてから返してくれる。
「モンスターの歴史に触れて、少し疲れた──私はもう休ませて貰うよ」
その言葉がキッカケで俺達は解散する事にした。
「最古のエルフよ、本の解読感謝する」
シャレに続いて俺達もお礼をして家を出た。
「ふぅ……それにしても色々な事が一度に頭の中に流れて来たな」
「ほっほっほ。まさかモンスターが言葉を理解して話せるとは思いませんでしたな」
「それに、ドラゴンが実在した事に驚きました」
あまりにも情報量が多すぎて処理し切れないな。
「まぁ、今は戦争に集中した方が良さそうだな」
俺の言葉に真剣な表情で全員が頷く。
「そういえば、お兄さん──スキルのヒントが分かって良かったね!」
「あぁ。だけど、抽象的過ぎて、何をすれば良いか結局分からなかったな」
線と円を掛け合わせたものってなんだよ……それに円すら意味わからねぇーよ
線の意味は何となく分かる──恐らく今使用している地面に敷くラインの事だろう。
しかし円ってなんだ?
一本のラインを円に出来る物なのか?
「訓練の時に試してみるしか無いな」
「私も訓練手伝います」
「あはは、私も!」
「僭越ながら私もお手伝い致します」
俺達が話していると、シャレが話かけて来た。
「アトス達は凄いな」
「いきなり、なんだよ?」
「いや、既にかなり強いと思うが、まだ強くなろうとしている所だ」
「えぇ──私達エルフの中で一番強いであろう、シャレ様とニルトンさんよりも強いのに未だ強くなろうとしています」
シャレとニネットが感心した様子である。
「いや、強いと言ってもリガス以外は特化し過ぎているから、一対一の戦いになったらシャレ達に勝てないぜ?」
「アトス様の言う通りです」
「私達は四人で最強だからね!」
「ほっほっほ。それぞれが補えば良いのですよ」
俺達の言葉にエルフ二人が微笑む。
「はは、全くその通りだな」
「えぇ──今回の戦争は、いくら一人が強くても勝てません。皆で協力する事が大事です」
二ネットの言葉にシャレが同意する。
「そうだな……その為には今の同胞達にアトスの事を認めさせ無いとな……」
「難しい事かもしれませんが、一緒に頑張りましょう」
それから俺達は家に戻り早速明日から特訓を開始しようという話になった。
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