第305話 最古のエルフ
「アトス様、本は私が持ちます」
「あぁ、済まない」
午後になり、俺達はシャレとニネットに連れられて古き時代から生きているエルフの元に向かう。
「つり目さんもお兄さんの本に書かれている文字は見た事あるのー?」
「つ、つり目……。いえ、私は見た事ありません」
どうやら、ロピの中では完全にニネットの事をつり目と認定した様だ。
それから、俺達はエルフの村の奥に向かって、どんどん歩いて行く。
「ふむ。結構奥にあるんですな」
「あぁ、最古のエルフは昔を生きる者だからな──我々エルフ達ですら滅多に会わないくらい奥に住んでいる」
「あはは、なんだか仙人みたいだ──」
ロピが何かを言い切る前に妹のチルが口を塞ぐ。
「はは、ロピの言う通り仙人みたいな存在だな──私は村長だから良く会うがニネットなんかは一度も会った事が無いんじゃないか?」
「はい──私は会ったことがありませんね」
「ふむ。その方はどれ程前から?」
「詳しくは聞いた事無いが千年以上生きているって言ってたな」
千年……それは期待出来そうだな……
「ほっほっほ。流石エルフ族ですな──魔族でも千年とも成れば中々いませんぞ?」
「魔族も寿命的にはエルフとそこまで変わらないのでは?」
ニネットの言葉に皆がリガスに視線を向ける。
「ほっほっほ。まぁ、魔族は好戦的な者が多いですからな──寿命で倒れる者よりも戦って死ぬ者が殆どですな」
「「「「……」」」」
リガスの言葉に誰もが若干引いて、何も言葉が出ない様だ──と思ったらチルだけは違った様で何やら頷いて居た。
「戦って死ぬなら本望……」
「──ダメだよ!?」
妹の虚言に慌ててロピがツッコム。
「ふむ。流石に私のご主人様ですな──このリガス死ぬ時は一緒ですぞ」
リガスの言葉にコクリと頷くチル。
「分かった」
「──いやいや、分かったじゃ無いよ! チルちゃんどうしたの?! なんでそうなっちゃったの?!」
あまりにも、妹が勇敢過ぎて、姉のロピは付いていけてない様だ。
「お、お兄さんからも、何か言って! チルちゃんがどんどん逞しくなっていく!」
アワアワしながらロピが慌てている。
「姉さん、落ち着いて?」
「お、落ち着けないよ?!」
「私は大丈夫──姉さんのお陰で学んだから」
「な、何を……?」
チルの言っている事が分からない様で首を傾げるロピ。
「なにがあっても最後の最後まで諦めないって事を……」
「ん? ──私、チルちゃんにそんな事教えたっけ?」
「うん──姉さんは常に行動で私に教えてくれた……あの時も……」
何かを思い出す様に目を瞑るチル。
「あの時……?」
「ううん──何でもない」
「えー? そこまで言ったら教えてよー」
「ダメ」
それからは、いつもの二人のやり取りになり、結局は微笑ましい喧嘩になった。
「ほっほっほ。いつ見ても和みますな」
「はは、あの姉妹は本当に仲が良いな」
リガスとシャレが笑いながら二人を見る。
それから暫く歩いていると、やっと目的の場所に到着した様だ。
「なんか、神秘的な場所だな……」
「はい。ここだけ別世界みたいです」
到着した場所は、とても静かであった。
普通なら、草木の揺れる音、動物、虫達の鳴き声などがある筈なのに、この場所に置いては、一切音がせずにシーンと静まり返っており、俺達が出す音だけが周りに響く。
そして、一際立派な木の上に一つのツリーハウスを見つける。
「あそこに最古のエルフが居る。行ってみよう」
シャレを先頭に扉の前まで移動してドアを叩く。
少しして、扉が開き、中から出て来たのは老婆であった。
「来たか──まぁ入りなさい」
一瞬だけ俺の事を見た様な気がした。
老婆の後を追い家の中に入ると、室内は本で埋め尽くされていた。
「うわー、本がいっぱいあるねー」
「凄い沢山あります」
「ふむ。どれも古い物ばかりの様ですな」
三人は部屋を見回す。
天井もそこそこ高い家なのだが、上から下まで本棚になっており、どこを見渡しても本が常に目に入る。
図書館だな……
シャレ以外の全員が周りを見て驚いていた。
「それで、何か話があるって聞いたけどなんだい?」
千年以上生きているとは信じられ無い──どう見ても初老くらいにしか見えない最古のエルフが口を開く。
「最古のエルフよ、まずは紹介させてくれ」
そう言ってシャレはニネットから順番に紹介していき、最後に俺を紹介した。
「こちらは人間族のアトスだ──前の戦いで命を救われてな──その時に手に入れた本が読めないので最古のエルフに見てもらいたい」
シャレの紹介で最古のエルフが俺の事を上から下までじっくりと観察した。
「ふん──いいだろ。座りながらゆっくり話を聞こうじゃ無いか」
そう言ってテーブルに座る様に促される。
俺は少しだけ意外そうな表情をする。
それは、今までのエルフ達と同じ様な反応をされると思ってたからだ──だがそんな事も無く最古のエルフが再び口を開く。
「それじゃ、早速見せて貰おか」
俺はチルに目配せすると、一度頷き、チルは持っていた本を机に置き最古のエルフに見せる。
「──ッ!」
そしてその本を見た途端に明らかに表情が変わったのであった……
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