第283話 モンスター 2

 現在、シャレの家でお世話になっている俺達──昨日は小型が五体程現れたと言い、討伐しに向かったシャレ達だったが、何の問題も無く倒し切って帰ってきた。そして現在は次の日の朝、それも早朝なのだがシャレの家の扉を物凄い勢いで叩く音で目が覚める。


「ん……なんだ?」


 扉の音は一向に止む気配は無く、むしろ最初に比べて更に大きく強く叩いているのが分かる。


「シャレ様! シャレ様!」


 恐らく二ネットであろう、必死な声に焦りが交じっている様な気がする。すると、家の家主も気が付いたのか扉が開くのが音で分かった。そして、二人が何やら話しているのか暫くは静かになるがシャレの言葉が更に聞こえた。


「なんだと!?」


 その声は家全体に聞こえる程であり、流石に気になった俺はベッドから降りて部屋を出る。すると、俺と同じ様にチルも向かいの部屋から出て来てリガスも別の部屋から出て来る。


「アトス様、何かあったのでしょうか?」

「いや、分からない──俺も気になってな……」

「ふむ。取り敢えず玄関に行ってみましょう」


 俺達三人はシャレ達がいる玄関に向かって歩くとシャレ達もこちらに気が付く。


「おはよう、シャレ──何かあったのか?」

「──アトス! ちょうど良かった、実は頼みがある」

「頼み?」

「──ッ、シャレ様いけません、人間族に頼み事など!」

「この状況、今の私達では解決出来ないだろ!」


 なんだか穏やかじゃない雰囲気に俺は嫌な予感しかしない……


「どうした?」

「実は、モンスターが現れた」

「またか?」

「あぁ、それも報告では小型10体だ……」


 10!? おいおい……そんなにかよ……


「ふむ。シャレ殿、ここの村で戦えるのは何人なのですか?」

「どんなにかき集めても30人くらいだ……」

「30……か……」


 30と言ったら、小型相手に6体までなら対応出来そうだが10体はキツいよな……


「昨日は何とかなったが、流石に私の村の者達で10体は相手に出来ない──良ければ私達に手を貸してくれないか?」


 シャレが俺達に頭を下げる。そしてその傍らでは、なんとも言い様の無い表情を浮かべた二ネットが居る──恐らく、人間族の力を借りたく無いと思う反面、自分達ではどうする事も出来ないのを自覚しているからだろう。


「シャレ、頭を上げてくれ──もちろん俺達は手伝うぜ」


 俺の言葉にチルとリガスが頷く。


「あぁ……ありがとう……やはりお前は私の知っている人間族とは違うな……」

「アトス様は特別」

「えぇ、アトス殿は少々変わっていますな」

「おい!」


 なんだか、納得がいかないが、取り敢えず準備して現場に向かう事になった。


「それにしても10体か……」

「問題有りません、今の私達なら」

「ふむ。そうですな、なんて言っても中型を倒せるくらいですので、小型10体程度どうとでもなりますな」


 実際に俺達四人で小型10体を討伐するのは流石に無理だがエルフ族が30人も居るなら話は別だ。


「俺のスキルは人が多ければ多い程、効果を発揮するしな」


 直ぐに出発の準備に取り掛かる俺達だったが、何か忘れている気がする……


「そういえば、ロピは?」

「まだ、寝ています……」


 あんなに騒がしかったのによく寝てられるな──まぁ、変異体が近くを通ってても寝ていたくらいだからな……


「直ぐ起こして準備をさせてくれ」

「分かりました」


 シャレも含めて俺達は一度自分の部屋に戻り準備に取り掛かる。


「まぁ、準備と言っても俺の場合は着替えるくらいなんだけどな」


 左腕を失くしてから少し経過して俺も大分着替えが上手くなったな……


 手早く着替えたつもりだったが、部屋を出ると既に三人共廊下に出ていた。


「お兄さん……おはようー」


 まだ、眠そうに目を擦り妹のチルに支えられているロピ。


「あぁ、おはよう。状況はチルから聞いたか?」

「うん……小型が沢山出たって聞いたー」


 立ったまま目を瞑り、チルに体重を掛ける。


「姉さん、起きて。これから戦闘だよ?」

「うん……分かっているよー、だけどもう少し……」


 そう言うとロピは寝息を立て始めた。


「え? ロピの奴寝たのか?!」


 俺は驚きチルに顔を向ける。


「はい、全体重を預けてきています」

「ほっほっほ。ロピ殿はどんな時でもロピ殿ですな」


 流石にこんな状況なのでチルに無理やり起こして貰う。


「ッイダ!? え? なになに?」


 チルが姉を地面に投げつけ……いや、地面にゆっくり寝かせてあげると、流石にベッドの様に柔らかく無いのか痛さで目が覚めた様だ……


「おはよう姉さん」

「うん? おはよう……なんか凄い衝撃が今あったんだけど……?」

「姉さん、今はそれどころじゃ無いの」

「そ、そうなの?」


 コクリと頷いたチルは状況をロピに話す。


「そっかー。モンスター達がそんなに……よし! 私が討伐してやる!」


 力拳を作り、そう宣言するロピにチルは拍手して応える。


 ……何という残念な子なんだ……


 俺が少し哀れんだ目でロピを見ていると隣のリガスが話す。


「ロピ殿は凄いですな」

「無理に褒める必要は無いんじゃ無いか……?」


 それから、最後にシャレが部屋から出て来て俺達はモンスターの居る場所に向かった。

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