第277話 アトスのリハビリ

 俺が目を覚ましてから一ヶ月程経過した。最初に起きた時は特に気にしてなかったが、一ヶ月も生活していると左腕を失った弊害が出てきた。それはとにかく何をするに置いても、前みたいにいつもの感覚で物事を行なってしまう事だ。


 例えば、ご飯食べる際に右手にスプーンを持ち無い筈の左手で食器を持とうとしたり、起き上がる際に左手で身体を起こそうとしたりと、上げたらキリが無い程俺は左手を案外無意識に使用していた様だ。


 やはり、左腕を失う事で色々大変ではあるが、困っている事があると、ロピ、チル、リガスがすかさずサポートしてくれる為大変助かっている。


「だけど、いつまで経っても助けられてばかりじゃ父親役として失格だよな」


 俺は徐々にだが自分で出来る事を増やしていく様に意識しながら過ごす様にしている。体調自体はシャレがくれた薬が効いた為痛みなどは一切無く左腕を無くしてから二ヶ月程経っている為、自分的にはもう大丈夫だろうと思っているが、チルだけは未だに俺の怪我が気になる様で夜は早めに寝かされる。


「さて、今日はリハビリがてら初めて外に出られるぞ!」


 チルの心配性が発揮されて俺は起きてからのこの一ヶ月は外に出る事を許可されずシャレの家を歩き回る程度だった。


 俺はベッドから起き上がり着替えをする。恥ずかしいのか着替えだけはロピもチルも最初から手伝ってはくれずリガスが手伝ってくれていた。


「二人ともお年頃なのかね……」


 身長の成長は止まったのか、ここ最近は大きくなっていない様だが、それでも軽く180以上はある様に見える。


「俺に分けてくれ……」


 獣人族は全体的に身体が、大きくなるのかと思ったが、シクは別にそこまで高くなかったから、単純にロピとチルが大きいだけだな。


 着替えが終わったタイミングで部屋のドアをノックされる。


「お兄さん、着替え終わったー?」

「あぁ、もう出掛けられるぞ」


 部屋に入ってきたロピも既に出掛ける準備が出来ている様子だ。


「なら行こうー。外でチルちゃんと魔族さん待っているよー」

「あぁ」


 ロピと外に出て二人と合流する。


「アトス様おはようございます」

「おはよう」

「アトス殿、昨日はしっかりと寝らましたかな?」

「あぁ、バッチリだ」


 朝の挨拶をしていると、ロピが既に前に歩き出していた様で──


「ねぇー、早く行こうーよ!」


 少し先でロピが手を振っている。


「俺のリハビリなのに、なんでアイツが張り切っているんだ?」

「姉さんは子供なので単純に外に出られるだけで嬉しいんだと思います」


 ……あれ? 確かチルとロピって同じ歳とか言ってなかったっけ?


「チルちゃーん、早くお出でよー」


 ロピは楽しそうにあちこちと見ている。俺もロピみたいにエルフの村を見回す。


「シャレの家もそうだが、エルフの家は木の上にあるんだな」

「ふむ。恐らくこの前私達がモンスター達に見つからない様に木の上に作った理由と同じでしょうな」


 どうやら、モンスターからの襲撃に備えてエルフ達は木の上に家を作っており、ログハウスツリー的な感じの建物が木のあちこちにあった。


「そういえば、ラノベやゲームに出て来るエルフ達もこんな場所に住んでいる事が多いよな……」


 前世の記憶を思い出しながら村を歩き回っていると、何やら視線を感じる。


「──ん? 見られているか?」

「えぇ、シャレ殿の家から出た瞬間から、あちこちから見られていますな」


 リガスが木の上にある建物をぐるりと見回す。


「エルフ族は人間族を嫌っている様なので、恐らくそれが原因かと」

「お兄さんは良い人間族なんだけどねー」


 ロピが戻って来る。


「この前の二ネット殿の反応を見れば分かると思いますが皆んながあの様な反応なんでしょうな」

「凄い、お兄さんの事嫌っていたもんね」


 確かに……二ネットの態度で俺は嫌われている事を直ぐに悟ったしな。


「ですが、私はそれで良いと思っています」

「ん? ──なんでだ?」

「エルフ族は皆が美人なのでアトス様は、この前みたいに鼻の下を伸ばすと思います。でもエルフ族は人間族を嫌っているので相手にして貰えないので」

「あ、確かに! その点は安心だね!」

「ほっほっほ。お二人とも厳しいですな」


 クソ……確かに否定は出来ない……。エルフ族なんかに誘惑されたら拒絶出来る自信は無いぜ……


 それから歩いていると、エルフ族の村なので、やはり実際に対面する事はある。


「あ、エルフさんがいるよ!」


 ロピはエルフに目掛けて走り寄り自己紹介した後に世間話をしている。しかも結構楽しそうだ……


「ロピってすげぇーよな……」

「はい、姉さんは凄いんです」

「ほっほっほ。ロピ殿は直ぐに誰とでも打ち解ける印象がありますな」


 ロピの方に近付くと──


「あ、お兄さん! この人が村を案内してくれるって!」


 エルフは俺達が近付くと──いや、俺が近づいて来るのが分かると、先程まで笑顔でロピと話していた筈なのに急に険しい表情になる。


「に、人間族!? ──ロピごめんね案内はまた今度ね」


 そう言うと急いで俺から離れて行った……


「……お兄さん、何したの?」

「俺が聞きてぇーよ!?」

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