第278話 エルフ族の過去

 俺は先程の事をシャレに話した。


「そうか……それは不快な思いをさせて済まなかった」

「シャレ様が謝る事は一切無いです。人間族を見たんですから、村人の者の反応は当然だと考えます」


 ニネットの言葉を否定しない所を見るとシャレも同じ様な事を思っているという事か。


「アトス、今回の様なエルフ達の反応には理由があるんだ」

「理由?」

「あぁ……」


 シャレは少し暗い表情をする。


「アトスには話しても良いだろう──このまま何も知らないままだと辛いだろうし」

「──!? シャレ様、この様な者に我々の過去を話すと言うのですか!」

「アトスは私の命を救ってくれた者だ。いくら人間族だとしてもアトスは信じられる」

「──ですが!」


 二ネットの反応を無視してシャレは話し出す。二ネットの方はいくらシャレに言った所で無駄だと思ったのか今は黙っている様だ。


「過去に私の住んでいた村が人間族に襲われたんだ……」


 そこからの話は聞くに耐えない物であった。人間族から見て容姿の良いエルフ族は奴隷にする為良く狙われるそうで、シャレ達は一度人間族の捕虜にされてしまった様だ。

 そして……捕まった後は何日も人間族に嬲られ、弄ばれたと言う。それも毎日毎晩何人もの者達に……


「──と、まぁこんな過去が我々にはあってな、あの時は何とか仲間が助けに来てくれて逃げられたので、今はこうしてこの村を作り生きている」


 シャレの過去を聞き言葉が出てこない。


「だから基本、エルフ族は人間族の事を嫌っている──特に女性のエルフは嫌悪感を抱く程度にはな」

「それは……しょうがない事だよな……」

「ふふ、優しいな」


 シャレは俺が動揺しているのを見て笑っている。


「私も、ドワーフの村にいた時は同じ気持ちだった──いや、今も基本は変わらんな。人間族なんて殺してやりたいくらいだ」


 シャレから殺意が漏れ出た為、俺は少し後ろに下がる。


「ん? あぁ悪い悪い。アトスは別だから安心してくれ」

「ん?」

「お前が、仲間の為に身体を張った姿に私は感動した。人間族にも、そんな気骨のある者がいるとは想像すらしなかったからな」


 そう言うと、シャレは俺の左腕に視線を移す。そして何故か両隣にいた三人が口を開く。


「へへ、私達のお兄さんは凄いでしょ?」

「アトス様は偉大な方です」

「ほっほっほ。頼りになる我々のリーダーですからな」


 三人を見て笑うシャレ。


「それに、人間族でありながらここまで他種族に好かれて、信頼されている事が異常に思える」


 シャレの言葉に続けて二ネットが口を開いた。


「貴方達は何故、そこの人間族をそこまで信じられるのですか……?」

「それは、お兄さんが家族だからだよ!」

「ほっほっほ。家族であれば人間族だとかは関係ありませんな」


 家族……良い言葉だな……。本当はここに更にシクも居たんだけどな……


「家族……ですか……やはり良く分かりません。所詮は我々を狙う人間族です」


 キツい視線を送って来る二ネットにチルが話し掛ける。


「そもそも二ネットの認識は間違っている」

「どう言う事ですか?」

「アトス様は人間族じゃない」


 チルの言葉に二ネットは首を傾げる。


「この者が人間族じゃ無いと言うならなんだって言うんですか?」

「アトス様は神族」

「…………」


 流石の二ネットもチルの突拍子の無い発言に付いていけないのか、先程までの険しい表情が崩れ何を言っているんだ? と言う様な視線を周りに向ける。


「あ、あはは。さ、チルちゃん私達は少し外に散歩しに行こうか」

「なんで? これから二ネットにアトス様の事を説明しないと」

「大丈夫、大丈夫。後の事は魔族さんがやってくれるから」

「お任せください。しっかりと二ネット殿にアトス殿の素晴らしさをお伝えしときます」


 チルは納得いかない様子ながらも頷き、姉のロピに手を引かれて部屋を出て行く。


「──済まなかったな……」

「い、いや、いい……」


 俺の謝罪にシャレは戸惑いながらも応えてくれる。


「──ま、まぁそんな感じで村のエルフ達からしたら過去を思い出す恐怖の対象だからな、そこは大目に見て貰いたい」

「あぁ、もちろんだ。そう言う過去があるならしょうがないよな」

「別にアトスが悪い訳じゃ無いが、私達から見たら人間族全員があの時に居た者達の様に見えて、過去の事が頭の中で蘇る」


 シャレの美しい顔が苦悩の表情になる。やはりシャレも含めてエルフ達は過去や辛い出来事を忘れる事が出来ない様だ。


「──私の場合は、アトスだけは問題無く話せるし、過去を思い出さないけどな」


 うん……やはり誰もが苦悩の表情より笑顔の方がいいな。


「シャレ様、そろそろお時間です」

「あぁ、もうそんな時間か──悪いがアトス私達はこれから用事があるから、また後でな」


 そう言って、シャレと二ネットは部屋を出て行くが、最後に二ネットが俺の事を上から下まで一通り見た後に部屋を出て行った。


「ふぅ……凄まじい過去だったな」

「えぇ、そうですな」


 本当に人間族の良い噂は聞かないな……

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