第276話 ニネット
「アトス調子はどうだ?」
「あぁ、痛みも無いし身体が少し怠いだけだな」
「はは、そうかそれは良かった」
「なんか、貴重な薬を貰ったみたいで悪いな」
どれだけ貴重か分からないが俺の大怪我を此処まで回復させたのだから相当な代物なのは分かる。
「いやいや、アトスのお陰であの場は助かったものなのだからこれくらい──」
「──本当です、人間族の貴方の為に村の貴重な薬を使用したのですから早く治してこの村から出て行って下さい」
シャレの話している所を割り込んできたエルフを俺は見る。
「す、済まない。コイツは私の補佐をしている、二ネットだ──見て分かると思うが頭が硬い奴でな、今の様な態度を取ってしまう事がある」
二ネットと言うエルフを見ると、こちらもやはり美しかった。二ネットは肩まで掛かる様なショートカットに性格がそのまま現れている様なキツい印象を与えるつり目が特徴的だ。
「シャレ様に言われてしょうがなく貴方を村に入れましたが私は反対です。貴方も早く治してこの村から直ぐに出て行って下さい」
「馬鹿──止めろ。アトスが居なかったら私は死んでいたんだぞ?」
シャレの言葉に少し表情を崩す二ネットだが直ぐに表示を引き締める。
「そのお話は聞きました」
すると、俺の方に向いて二ネットが頭を下げてくる。
「この度は、私達の村長を救ってくれて本当にありがとうございます。この件に関しては貴方にとても感謝しております──ですがやはり人間族とは過去に色々ありましたので一緒に居て気分のいいものでは無いので出来る限り早く直して頂きこの村を立ち去ってください」
二ネットは伝えたい事は言えたのかシャレの一歩後ろに下がった。その姿はまるで従者の様だ。
「アトス、私が誘っておいて申し訳無いがこの村では、二ネットみたいな考え方の者が殆どでな……居心地が悪いかも知れないが事情はシッカリと村人達に話してあるから気にせずこの村で療養してくれ」
シャレは少し申し訳無さそうにしつつ歓迎の意を伝える為か笑顔で俺に笑い掛ける。
「あぁ、なら御言葉に甘えてそうさせて貰おうかな」
俺の言葉にシャレの後ろに控えていた二ネットの視線が険しくなるのを感じた。
こ、こぇーよ……
シャレから見えない事を良い事に二ネットは首を左右に動かしてシャレの言葉に否定の意を唱えている。
早く出て行けと言っているんだろうな……
俺がボーッとしながら二ネットの方を見ているとシャレが不思議そうに首を傾げる。
「ん? どうした──やはりまだ体調が悪いのか?」
シャレは心配する様に更に俺に近ずくがそれを見て室内に居る三人が慌てる様に止めに入る。
「シャレ様、それ以上人間族に近付いては行けません──犯されます!」
「シャレ、それ以上アトス様に近づかないで」
「大鎌さん、ダメだよ! 貴方はお兄さんとの過度の接触を禁止するよ!」
一斉に三人から止められて困惑するシャレ。
「な、なんだ? 別に何もしないぞ? ただ、アトスがまだ治ってないと思い見てやろうと……」
三人からの圧が強い為シャレも言葉が途切れ途切れになる。
「いけません、それでは人間族の思う壺です。こうして油断させてシャレ様を犯す気です!」
「お前な……さっきから汚い言葉を使い過ぎだぞ? アトスがそんな事するわけ無いだろう……」
呆れ気味に二ネットを見る、シャレに対して次はロピが話す。
「そうだよ! そこのつり目さんの言う通り、お兄さんは何するか分からないから近付いちゃダメだよ!」
「その通りです、アトス様は危険なので近づかない方がいい」
「──あ、あのつり目とは私の事でしょうか……?」
ロピのいつもの調子に二ネットは少し戸惑っていたが、直ぐに我に戻った。
「そこの獣人族達の言う通りです。シャレ様も知っている筈です──人間族は策略に長けているのを」
三人から怒涛の様に言われたシャレは段々と思考の誘導をされたのか俺から一歩だけ距離を取る様に離れた。
……しょうがない事とは言え少し悲しい
俺がシュンとなったのが分かったのかシャレは慌てて、先程の位置に戻る。
「す、すまない」
「はは、シャレは優しいんだな」
「そうです、なのでシャレ様の優しさに漬け込む様な真似はしないで頂きたい」
二ネットは俺とシャレの間に慌てて割って入り引き離す。
「それではシャレ様、私達はこの後もやる事があるので行きましょう」
「あ、あぁ──アトスまた来るから今日はゆっくり休んでてくれ」
「そうさせて貰うよ、ありがとうな」
「こちらこそ、ちゃんとお礼を言えなかったからな、あの時は助けてくれてありがとう」
シャレは少しの間、頭を深く下げて俺に対して感謝の気持ちを示した。
「さぁ、シャレ様行きますよ」
「分かっているから、押すな二ネット」
「少しの時間も無駄にする事は許されませんからね」
こうして二ネットがシャレの背中を押して部屋から出て行く。
「お兄さん、あのエルフさんに嫌われてたね」
「うっ……」
ロピに本当の事を言われて若干ショックを受ける俺。
「あの二ネットとか言うエルフは使える……」
何に使えるか分からないがチルは一度頷く。
「ほっほっほ。とりあえずアトス様、今日はもう寝て下さい」
「リガスの言う通りです──目が覚めてまだ全然経ってないのですから徐々に慣らして行きましょう」
「お兄さんお休みー!」
三人に休む様言われた為、無理やり目を瞑るが──どうやらまだ身体は休息を必要としていたのか直ぐに眠りについた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます