第239話 アトスの行動とは

 中型に吹き飛ばされたと認識した後、直ぐに背中から地面に落下する。


「ッッツ……」


 ロピとチルに抱き着かれていた為、受け身も取れずに背中から落下したので一瞬、息が出来なくなったが、二人のお陰で身体は動く様だ。


「ロピ! チル!」


 直ぐに起き上がり、ロピとチルに呼び掛けるが、二人とも返事をしない……

 直ぐに心臓の鼓動を確認すると、弱々しいが、動いている事に安堵する。


「お、俺を守る為に……二人は……」


 地面に横たわる二人を見て先程までの気持ちが、どんどん沈んでいくのが分かる。


「ど、どうする……」


 ここに来て俺は何をすれば良いか分からなくなる。


 何度も何度も何度もピンチを乗り越えて来たつもりだが、最後の望みである、ツェーンショットも中型に避けられてしまった。

 そして、雷弾を撃つ為のスリングショットも壊れて、中型を倒す方法が無くなり、終いには俺を守る為に二人が怪我をした……


「アトスさん!」


 マーズの叫び声に反応して顔を振り向くと、そこには中型が居て俺達を見下ろしていた。


「……」


 中型に視線を合わせながら、ロピ達を守る為に少し移動すると、俺を追う様に中型の顔が動くのを感じた。


 ロピじゃなくて俺に集中している……?

 確認するべく、もう一度動くと、やはりこちらに視線が付いて来るのが分かる。


 これなら……


 俺は一瞬、ロピ、チル、リガスの方を見る。二人は気絶していたが、リガスとは目が合った。

 

 俺は沈み掛かっていた心を無理矢理奮い立たせる。


 三人だけは守りたい!


「リンクス!!」


 俺は、中型に視線を戻し大声で叫ぶ。


「な、なんだ?」

「あの玉を、ありったけ俺に投げつけろ!!」


 俺がリンクスに言ったあの玉とはモンスターを誘き寄せる為のものである。


「だ、だが……」

「いいから、早くしろ!!」

「ヒィィィ!?」


 俺の雰囲気に怖気付いたのか、鞄から例の玉を三つ程取り出し俺に目掛けて一個投げる。


 リンクスが投げた玉は俺にしっかりと当たり、玉の中身が俺に降り掛かる。


 降り掛かった瞬間に、中型だけでは無く、周りに居る小型達も俺の方に視線を向けたのか分かった。

 だが、それでも中型の指示を優先しているのか、襲い掛かっては来なかった。


「リンクス、もっとだ!」

「どうなっても知らんぞ!」


 続けて、残りの二つを俺に投げつけ、俺自身に粉が降り掛かった。


 すると、先程までの自制していた小型達だったが、やはり三個分ともなると、自制が働かなくなるのか、いきなり俺に向かって来るのが見えた。


「よし……」


 中型の方はまだ理性が残っている様に見えるが、シッカリとこちらに向いているので、俺は背を向けて走り出す。


「せめて、ロピとチル、リガスからコイツらを離さないとな!」


 既に、俺自身が生き残る事は諦めているが、せめて家族だけは絶対に守ってやる。


「クソ……走りにくい……」


 俺は、バランスを取りながら全力で変異体の方に向かって走り出す。

 どうやら、変異体は何処かに移動しているのか、見える範囲には姿が無かった。


「少しでも、アイツらが逃げる時間を稼ぐには、やっぱりモンスター同士で争ってくれないとな」


 後ろには、しっかりと中型と小型が付いて来るのが見える。


「はぁはぁ……」


 以前と同じ感覚で走るが、スピードも出ないし、息も直ぐに上がってしまう。

 だが、必死に足を動かし続ける。


「そうだ……追いかけてこい」


 俺の走るスピードは遅く、直ぐに小型達に追い付かれそうになるが、先読みを駆使して避けながら距離を稼ぐ。


 唯一の救いは中型が弱っている事だった。


「ロピのお陰だな」


 いくら、急所に当たらなかったとは言え、雷弾が当たった中型は相当弱っており前みたいなスピードで移動出来ない様だ。


「はぁはぁ……これなら、まだ稼げそうだ」


 俺はひたすらに先読みで小型達が追って来るルートを読みながら走り続ける。


 先読みと言っても、いくらモンスター達の行動が読めても身体が反応しない時がある為、何度も小型達の突進などが直撃しそうになる。

 それでも、足をひたすらに動かし続けて皆んなから距離を取る。


 だが、大怪我している者がいつまでも走り続けられる訳も無く。とうとう体力的に限外が訪れる。


「はぁはぁ……くそ……はぁはぁ」


 左腕を失ってからと言うもの、気力だけで動いていた部分もあり血を失い過ぎているせいか立っているのも辛い状況であった為、流石に限界が来た様だ。


「とりあえず、モンスター達は誘き寄せられたし、いいか」


 必死に動かしていた足を止める。

 逃げて来た方を見ると、ロピ達の姿は見えない。


「はは、後は変異体に粘って貰わないとな」


 俺は変異体の方に顔を向けると、丁度トゲをこちらに向けて発射する所であった。


「少しでも、モンスター共を減らしてくれよ……?」


 変異体に笑い掛けて俺はスキルを発動する。


「アタック!」


 赤いラインを変異体に敷き中型と小型を仕留められる様にサポートを行う。


 そして、トゲはこちらに向かってどんどん迫り来るのが見える……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る