第240話 協力体制?

 変異体がこちらに向かってトゲを飛ばして来た。死ぬ覚悟があるとは言えやはり怖かったので俺は無意識に目を瞑っていた様だ。


「ん?」


 頭の上を何かが通過する感覚を覚え、俺は目を開ける。


 すると、変異体が飛ばしたトゲが俺の頭の上を通過するのが見えた。


「ど、どういう事だ……?」


 何故、俺ごとトゲで仕留めない?


 少し様子を見ていると、変異体のトゲは次々と小型に対して突き刺さるが、やはり俺の方にはトゲが飛んで来ない様だ。


「もしかして……わざと当てて無いのか?」


 いやいや、いくら頭が良いモンスターだとしても、人間を敢えて見逃すなんてあり得るか?


 それとも、小型達を倒し終わってから、俺を捕食する為に殺さないでいるのか?

 

 俺が混乱している間も変異体は次々とトゲを飛ばし、迫り来る小型達を倒していく。

 だが、中型にはやはり攻撃力不足なのかトゲ自体は突き刺さるが、やはりダメージにはならない様で、小型が次々と倒れていく中、中型はゆっくりと此方に向かって進んで来る。

 そして、負傷している中型を次々と追い抜き小型達が俺の方に向かって来る。


「まだ、例の玉の効果が切れてないのか……」


 すると、変異体が何故か此方に顔を向けて奇声を上げ始めた……


「な、何言っているか分からないけど……恐らく……」


 俺は、変異体の言葉自体は分からないが、何を思っているのかが、何となく分かり試しにやってみる事にした……


「ア、アタック!」


 変異体の下に赤いラインを敷き、攻撃力を上げる。


 すると、先程まで此方に向いていた顔を中型達の方に戻した。


「や、やっぱり……」


 とても、信じられ無い事だがどうやら変異体は俺と協力してこの場を乗り切るつもりの様だ……


「夢でも見ているのか……?」


 目の前の光景が未だに信じられずにいると、また変異体が此方に顔を向けて奇声を上げて来る。


「あ、あぁ……悪い」


 伝わる訳も無いが、俺は変異体に謝り直ぐに止まっていたサポートを再開する。


「アタック!」


 俺のサポートにより、変異体の攻撃が劇的に変わっていく。


 小型に対してはサポート前でも十分な殺傷能力を持ち、大体が一撃で沈んでいたが、サポートする事により、トゲが貫通して後ろの小型にも当たり二体を確実に倒せる様になる。


「トゲ一発で小型ニ体とかヤベェーな……」


 変異体がどれ程強いのか分かる。



 俺はサポートしながら、変異体に近づき隣で立ち止まる。

 その姿を、他の者が見たら信じられないだろう。


「よっし! こうなったらやってやるぜ!」


 後で、変異体にバクリと捕食されてしまうかも知れないが、今は全力で変異体をサポートする事に集中する。


「アタック!」


 まだ、数は多いが小型達を次々と倒していく。


 このまま減らし続ければいずれ……


 だが、そう上手くはいかなかった。


「よし、中型の姿が見えた!」


 負傷して、後ろの方にいた中型だったが、やっと姿を見せ始めた。


「アタック!」


 変異体も、やはり中型に色々思う所がある様で何本ものトゲを飛ばし始める。

 しかし、トゲが中型に当たる事は無かった……

 

 中型はいきなり奇声を上げ始めると、例の玉の効果で自制を失っていた小型達が、いきなりトゲから中型を守る様に前に現れる。


「な!?」


 トゲ一発で小型を倒す事が出来るが、その分数が多い為、トゲが中型に迫り来る度に小型達が身体を張って変異体の攻撃を受け止めていた。



「これじゃ、小型全体を倒し切るまで中型に攻撃が通らないって事か……?」


 中型はゆっくりとだが、確実に此方に向かって進んでくる。


「でも、やるしか無い……よな!!」


 恐らく、モンスター達は俺と変異体に釘付けであり、俺がここに来てから結構時間が経っている。


「ロピ達が確実に逃げ切れるまで粘る!」


 皆んな怪我をしているが、中型も相当な深傷を負っているので、今更追い掛けても追いつかれ無いとは思う。


「だけど出来ればここで少しでも数を減らしたい所だな」


 俺は変異体と協力して次々と小型を倒す。だが、又もや中型が奇声を上げる。


 すると、防御の為に最低限の小型を残して残りが一斉に俺と変異体に向かって来た。


「や、ヤバイぞ! もっとトゲ出せないか?!」


 俺は変異体に呼び掛けるが、反応はせずひたすらトゲを撃ち続けている。

 そして、変異体もまた中型と同じく深傷を負っている。


「どうする……」


 俺は何か良い手が無いか考える。中型による遠距離攻撃は絶え間なく続いており、小型の死骸を量産していくが、それ以上に数が多い為、小型が目の前まで迫って来ている。


「頼むから、攻撃しないでくれよ……?」


 俺は変異体に近付き身体の上に登って行く。


 最初は俺の行動に反応した変異体であったが、何をしたいか分かると、再び攻撃に集中した。


「ふぅ……本当に家の屋根にいるくらいの高さがあるな……」


 俺は、変異体の頭の上まで登り終わり下を覗くと結構な高さがある事に気付く。


「さて、やりますか……」


 俺は前を向く。すると、変異体による攻撃を潜り抜けて来た小型達が複数で変異体に突進して来るのが見える。






 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る