第208話 マーズの掛け

「もー、しつこーい!」

「ずっと追い掛けて来ます」

「ふむ。やはりモンスター達は全く疲れた様子を見せませんね」


 俺達は湖から更に奥えと足を踏み入れた。景色などは特に変わった所は無く、敢えて言うならば木々などが密集している様に生えているくらいだ。

 だが、雰囲気や気配と言う意味だと大分変化があると感じる。


「上手く言えないが、湖より奥に入った途端、嫌な気配しか感じないな……」


 何故なのかは不明だが、とにかく俺達からしたら逃げ続けるしか手は無いようだ。


「皆さん、頑張って下さい!」


 マーズは三班全員を気遣う様に声を掛けている。


「オラ! 疲れても気合で走れ」


 フィールも皆を気遣い、少し遅れている者に対して掛け声を送っている。


「お兄さん、私達このまま食べられちゃうのかな?」


 珍しく、ロピは不安そうな目で見て来る。俺は、優しく頭を二回ポンポンと叩いてあげる。


「いや、大丈夫だ。仮に三班が全滅しようと、俺が絶対にお前達だけは生きて帰すから安心しろ」


 俺の言葉を聞いた途端にロピは笑顔になる。


「うん! お兄さんが、そう言うなら信じる!」


 それからロピは先程までの表情とは打って変わり笑顔でマーズやフィール同様周囲の人間達を元気付ける様に話しかけている。


「皆んな、頑張ってー! お兄さんが居るから心配しなくてもいいよー」


 やはり、見た目は大人でも中身はまだまだ子供か……こんな状況、怖いに決まっているよな……


「ほっほっほ。ロピ殿は余程アトス殿の事を信頼しておりますな」

「アトス様の言葉は絶対!」

「アトス殿。お前達の中には私達も含まれているのでしょうか?」


 リガスは分かり切っている事を聞いて来た。


「当たり前だろ?」

「私は一生アトス様に付いて行きます!」

「ほっほっほ。なら必然と私も一生アトス殿と一緒ですな」


 すると、俺達の会話を聴いていたのか、ロピが慌てて会話に入って来た。


「ま、待ってよ! 私も皆んなとずっと一緒!」

「もちろんだ。ロピもチルもリガスも全員一緒だ!」


 俺の言葉に三人は頷き。それぞれが出来る事をする為行動する。


「皆んな、お兄さんが居るから大丈夫だよー!!」

「アトス様を信じてひたすらに足を動かせば生き残れる」

「ほっほっほ。アトス殿の力があれば大抵はなんとかなります。皆さん頑張りましょう」


 雷弾、剛腕、鉄壁の三人に励まされた三班は表情を引き締め直し、より一層気合が入った様に見られた。


「アトスさん」


 すると、マーズが近付いて来た。


「貴方達のパーティは最高ですね」

「はは、ありがとう」

「私達兵士達も、これくらいの絆で結ばれていたら……」


 リンクス達兵士を見た感じだと、絆などは全く見受けられなかったな……


「それで、どうした?」 


 話題を変える様にマーズに質問する。


「一つ、提案があります」

「提案?」

「はい。どうなるかは分かりませんが、この状況を打破出来る可能性があります」


 お? 流石マーズだぜ!


「その手とは?」


 マーズは一度黙り込み、本当に今から言う策を実行しても良いか考えている様たが、結局は他に手が無い為、話始める。


「後ろから追い掛けて来る中型達を変異体にぶつけます」

「……なるほど」


 マーズの作戦は有りだと思う。前に中型と変異体が争っているのを見た。

 今の構図は俺達人間と中型達が争っているが、そこに変異体が加われば三つの勢力になり、この状況が崩れる。


「ですが、中型と変異体から見れば私達は所詮食い物でしか無いので、もしかしたら状況は更に悪化する可能性も……」

「賭けって事か……」


 現在、中型と小型に追い掛けられているが、なんとか犠牲者を出さずに逃げている。しかし、この状況に変異体まで加わったら話が違って来る。


「変異体の遠距離攻撃……」

「そうです。アトスさん達が見たと言う、変異体の遠距離攻撃が加わったら、流石にこちらから犠牲者が出ると思います」


 変異体は自身に付いているトゲを飛ばす攻撃が出来る。その威力は小型の外装を簡単に貫く程の威力を持っている為、俺達人間が食らえば終わりだろう……


「私だけの一存では流石に決められなくて……」


 このまま逃げ続ければ、もしかしたら……いや無理だな。

 中型達は俺達を逃す気は無いし、体力的にも振り切れないだろう。


「マーズ、やろう」

「大丈夫ですかね?」

「それしか、全員が無事に生き残れる選択肢は思い付かない」

「……そうですね。分かりました!」


 自分一人だけでは、判断に迷っていたマーズだったが、俺の意見を聞き決意を固めたようだ。


「実は逃げる時から思い付いていた作戦で、ずっと変異体の気配を探っていたんですよ」

「はは、流石リーダだな。なら見つかったのか?」

「はい。まだ距離はありますが」


 斥候と違って、マーズはどの様にしてモンスターの気配をそこまで正確に把握出来るのかは不明だ。


「皆さん! 少し賭けに出ます」


 そう言って、三班全員に説明したが皆が賛成を示した。


「いいじゃねぇーか! どっちにしろこのままじゃジリ貧だし、やろうぜ!」

「オイラも賛成だ! 生き残れる可能性があれば、そっちに賭けるべきだ」


 フィールとトインに続き、次々と今回の賭けに賛同の声が上がる。


「分かりました。それでは皆さんより一層厳しい状況になると思いますが宜しくお願いします」

「「「「「「「おう!!」」」」」」」


 こうして、俺達は変異体の方に向かって走り出した。

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