第207話 シャレとキル
モンスターの大群に追われて、私達はひたすら奥に向かって逃げている。
「あはは、副官よ! これは到達出来るのでは無いか?」
「ハッ! 前回の遠征時より大分進んでおります」
リンクス達の言葉が耳に入って来る。
この二人は同族の仲間でさえ、平気に囮に使う奴らだ……
これだから人間族は嫌いなんだ。人口が他種族に比べてかなり多いからなのか、直ぐに仲間を見捨てる。
「シャレよ、逃げる準備だけはしとけよ」
「宝を手に入れたら例のモノを投げ付けて、直ぐに離脱する」
私は、返事をせずに足だけを動かし続けた。
後ろを振り返ると、モンスター達は一定の距離を保って追って来る。
やっぱり、変に感じる。なんだか捕食しようと追って来ていると言うよりも、私達を何処かに追い込んでいる様に感じる。
私は、このままだと不味い展開になる事しか想像が付かない為、私と同じ様にこの異変に気付いてそうなドワーフに意見を聞こうと近付く。
「なんじゃ?」
私が近付いて来るのが分かったのか、ドワーフは私が声を掛ける前に話し掛けて来た。
「急に済まない。私はエルフのシャレと言う」
「ワシは、ドワーフのキルじゃ」
キルは自分の身長以上のハンマーを軽々と持ち上げながら走っている。そして、私と同じく一人でモンスターを討伐出来る者でもある。
「前回の生き残りとして聞きたい。初日から、この状況何か変では無いか?」
「気付いておったか……。ワシも何処か変だとは思っていた」
やはり私同様、この異様な状況にキルは気が付いた様だ。
「キルから見てどこが変なのか聞きたい」
「……まず、モンスターが少な過ぎた。そして、今はモンスターが多過ぎる」
キルは後ろを振り向く。
「私はまるで、捕食するのでは無く、どこかに私達を追い詰めたい様に見える」
「なるほど……そこまでは考えて無かったが、そう言われると確かにそう思えて来る」
「恐らくこのままだと不味い展開になる気がするが、何か良い案はあるか?」
私の質問にキルは少し考え込む。
「思いつかんな……。戦うにしても、あの数のモンスター相手では直ぐに全滅してしまいそうだ」
今追い掛けて来ているのは全て小型だが、前回の撤退時には中型の姿も見受けられた。戦闘などしていたら、更にモンスター達を集めてしまいそうである。
「打つ手無しか……?」
「悔しいが、ワシらには思いつかん……」
すると、徐々にだが逃げるのに遅れて来ている者達が現れ始めた。
無理も無い……湖から、ここまで全力で走り続けているので疲れるのは当然である。
「遅れて来る者が現れたな」
キルは周囲を見渡し呟く。
「キル達は平気なのか?」
「我々ドワーフは、そんな柔な鍛え方などしておらん!」
確かにドワーフ達には、まだまだ余裕がありそうである。
「これが、前回の参加者達だったら、まだまだ逃げられたんだがな……」
キルの言う通りである。前回と今回の参加者では、元々の自力が段違いに感じる。今回の参加者でも強い者は居るが、私が見た所、殆どが口だけの様に感じる。案の定、モンスターに追い掛けられているプレッシャーのせいなのか、今にも足が止まりそうな者達が何人も居る。
「はぁはぁ……し、死にたくねぇ」
「クソ……こいつらどこまで追い掛けて来るんだよ!」
そろそろ、何か行動移さないと、人数が減っていく一方だぞ……
私は、リンクス達の方を向くが二人は不適な笑みを浮かべているだけで、この状況を、どうにかしようとは考えていないようだ。
「アイツらが何を考えているか分からないが、指示を待っているだけでは、どうやら生き残れ無さそうだな」
そう言うと、キルは同胞達に声を掛ける。
「お前達、どうやら不味い状況になっちまった!」
「へへ、だからお前にリーダーは向いてないって言っただろう!」
「そうだそうだ。お前は作るのと、腕っ節しか取り柄が無いんだから」
「あはは、それは言えているな!」
こんな状況だと言うのにドワーフ達のノリは軽い。
「うるせぇーぞ。今からは生き残る事だけを考えろ! 同胞達の命を第一に考えて、余裕があれば他も助けてやれ」
「「「「「「おう!!」」」」」」
キルの言葉で、先程まで笑っていたドワーフ達の表情が引き締まる。そしてこの状況を打破するべくドワーフ達は周囲を隈無く観察しながらモンスター達から逃げる。
私達程では無いが、よく取れたチームワークだ。
すると、早速一人のドワーフが何かを感じたらしい。
「ん!?」
「どうした」
「周囲にモンスターが多過ぎて分かり辛いが前にもモンスターが居る気配を感じる」
「なんだと……?」
この先で更にモンスターがいるだと?
やられた……今私達を追って来ているモンスターはこれが狙いだったのか?!
「おいおい、まじかよ……」
すると、近くで私やドワーフ達の話を聞いていた参加者が叫び始める。
「なんなんだよ!! 前にもモンスターがいるだと!? ふざけんな!」
若干、錯乱しているのか男は大声で叫び始める。それが伝染する様に周囲に広まり次々と騒ぎ始める。
だが、足を止められるはずも無く私達は前に進み続ける。
「ん!?」
そして、先程のドワーフがまた何かを感じ取った様だ。
「次はなんだ?」
「キ、キル。見てみろよ……」
「ん?」
私もドワーフが指差した方向を見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「中型が二体だと……」
「キル、どうする!?」
「馬鹿野郎、道は前か後ろにしかねぇんだよ、やるしかねぇーだろ!」
キルの言う通り、後ろには大量の小型達がいて、前には中型が二体だ……やるしか無い。
ドワーフ達は武器を構える。そして、それを見た別の参加者達も覚悟を決める様に自身の武器を構えて中型に突っ込む。
だが、私はモンスター達では無い所で視線が止まっている。
「嘘……生きている……?」
そこには、中型達に追いかけられている人間達に目が止まっていた。
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