第206話 撤退……?

「お、おい。シャレよ、この状況どうすれば良い?」


 目の前にはモンスターの大群が出現していた。それは前回の遠征で撤退した数の比では無いくらい多い……


「リンクス」

「な、なんだ!?」

「撤退だ……」

「じょ、冗談じゃない! また撤退など許さんからな!」


 リンクスと言い争っている内にモンスター達はどんどん出現していく。


「なら、お前はここにいろ」


 そう言い私は移動しようとする。


「ど、どこに行く!」

「逃げるに決まっているだろう?」

「ゆ、許さんぞ! 逃げたら宝箱は渡さん」

「リンクス、周りを見てみろ」


 私の言葉に従いリンクスは周囲を見回す。


「て、撤退する!」

「マジで、これはヤバイぞ!?」

「なんなんだよこの数は!」


 どうやら、リンクスの指示を待たずに各班のリーダー達が撤退命令を下していた。


「お前は残ればいい。私は撤退もするし、宝箱もちゃんと貰う」

「ック……」


 リンクス自身も、この状況は不味い事くらい分かっているだろう。だが、三度の挑戦をして、三回とも失敗に終わるのが嫌なのだ。


「それじゃ、私は行くぞ?」

「ま、待て! 撤退を認めるから私も連れて行け」


 悔しそうに周囲を見回した後にリンクスは撤退を認めた。

 だが、決断が遅かった様だ……それは、リンクスだけでは無く他の班も同じで、モンスター達は私達が来た道を塞ぐ様に立ち位置を取っていた。


「お、おい! 来た道に戻れねぇーぞ!?」

「モンスター達が塞いでやがる!」

「ど、どうすりゃいいんだよ!?」


 偶然なのか、モンスター達はドワーフの村に行くまでの道を塞いでいた。


「クッ……シャレよ! どうすれば良い?!」


 逃げる方向なんて一つしか無い。私はリンクスに伝える。


「奥に逃げるしか無い」

「なんだと……?」


 リンクスは今居る湖の更に奥を見る。そこは来た時以上に草木が密集しており、より一層太陽の光が届かなそうな場所に見える。


「あ、あそこに逃げるのか?」

「それしか、道は無い」


 何故だがかモンスター達は私達を追い掛けず、まるで陣地を広げる様、そして私達を包囲する様に移動している感じがする。


「気のせい……? モンスターがそんな事考えて行動する筈ない……」


 私がモンスターを観察していると、リンクスが全体に号令を発声させる。


「皆の者! 森の奥に向かって逃げるぞ!!」


 よく通る声は周囲の班にも聞こえたらしく、全員が奥に向かって一斉に走り出す。


「し、死にたくねぇ!」

「お、おい押すな!」

「食われる……食われちまう……」


 参加者はパニック状態になっており、陣形も崩れて我先にと逃げていた。


 すると、今までこちらの様子を見ていたモンスター達も動きだし、私達を追ってくる。


「き、来やがった!」

「助けてくれー!!」

「ひぃ……」


 百人の人間の姿は、モンスターからしたらご馳走に見えるだろう。

 モンスターは私達を見て追い掛けて来るが、大群の為地響きが凄く、その振動がまた一層恐怖になりパニック状態を引き起こす……


「む、無理だ……こんな数のモンスターに追い掛けられて逃げられる筈ねぇ」

「おい! 諦めんな」

「な、なんだよ! あの数は!?」


 今回の遠征に来た参加者のほとんどが、ここに来るまでは強気発言などして舐めていたが、今はその逆であった……


「こんな遠征に参加しなきゃ良かった」

「いいから走れ!」

「母ちゃん……ごめんよ……」



 あちこちから、参加者の悲痛な言葉が耳に入って来る。


「シャ、シャレよ逃げ切れるのか?」

「分からん。だが少し様子がおかしいな……」


 この数のモンスター達に追い掛けられているのにもかかわらず、何故か一人も犠牲者が出ていない……


「そんな事ありえるのか?」


 自問自答をしている私にリンクスが問い掛けて来る。


「お、おい! 何がおかしいのだ!?」

「気にするな。とにかくお前は走れ」


 まるでモンスター達によって、ある場所に追い詰められている様に感じる。

 だが、モンスターにそんな知力があるなんて聞いた事も無いし、ますます謎が深まるばかりだな……


「ク、クソ。なんでこうも失敗するんだ……」

「リンクス様、ご無事でしたか」


 モンスターから逃げていると、副官が姿を現した。


「おぉ、お前も無事であったか」

「不思議な事に今の所犠牲者は出ておらず、全員逃げています」

「こ、この状況どうすれば良い!」

「村に戻れる態勢 状況ではありませんし、逆に利用しましょう」


 そう言うと、周りに聴こえないように話し始める。


「なるほどな! お前は頭が回って便りになる」

「ありがとうございます」


 何やら副官に吹き込まれてリンクスの機嫌は治った様だ。


「おい、シャレよ」


 リンクスの言葉に顔だけ向く。


「副官とも話し合ったのだが、このまま本来の目的を遂行しようと思う」

「どういう意味だ……?」

「どうせ、元々奥に進むつもりだったのだ、このまま目的地に向かう」

「リンクス様の言う通り。目的が遂行出来次第コイツを各班に投げ付けて私達は逃げる」

「他の者達も私の為に犠牲になるなら本望だろ」


 副官の手には、前回撤退する時に雷弾達が居た三班に投げつけたモノがあった。


「目的のモノを手に入れたら、コイツを投げつけてモンスター達が他の班に惹きつけられている内に逃げる」

「シャレよ、お前だけは私達と一緒に逃げれば良い」

「リンクス様の寛大な判断に感謝するが良い」


 私は、リンクスの表情を見ると、先程迄が嘘の様に、今は不敵な笑みを浮かべていた……

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