第188話 モンスター?

「アトス様、朝です起きてください」


 チルに優しく揺り起こされた俺は眠い目を擦り起き上がる。


「おはようございます、アトス様」

「おはよう」

「ほっほっほ。眠そうですな」

「結構快適だったとは言えやっぱりモンスターが気になってな……」


 大木の上で夜を明かした俺達だが、夜中に木の下を何体も通過していた為に全然休んだ気がしなかった。


「むしろ、二人は眠れたのか?」

「私も、アトス様と同じで寝られなかったです……」

「ふむ。私は元々そこまで眠らなくて大丈夫ですからな」


 やはり、こんな状況でグッスリ寝られる訳無いよな……。


「この状況じゃ、逆にグッスリ寝る方が危ないか」

「ほっほっほ。そうですな、完全にリラックスしていたら、いざと言う時に反応出来ませんからな」

「なら、私達は正解なんですね」

「そうだな」

「ほっほっほ。そうですな」


 俺達は敢えてある方向を見ないで話している。その方向には一人の獣人族が爆睡しているのが見える……。


「うみゅ……やっぱり……お肉は最高だよ……」

「「「……」」」

「お兄さん、それは私のだよ……でも、特別にあげるよ……うへへ……」

「「「……」」」

「ま、まぁ……熟睡出来るのも才能だよな……」

「ほっほっほ。大物になりますな」

「姉さんは、凄いんです……」


 まさか、身内にそんな存在が居ると思わなかった俺達は、フォローする様に会話の流れを変えるが、見かねたチルがロピの方に向く。


「起こします……」

「頼む……」 


 ロピは勢いよく揺り起こす。


「姉さん、起きて、朝だよ!」


 俺の時とは随分揺らす勢いが違うが、ロピはそんなのでは起きなかった。


「チルちゃんも……一緒に魔族さんのご飯……食べよ……」


「ほっほっほ。ロピ殿は夢の中でも私のご飯を食べているとは光栄ですな」


 見兼ねたチルはいつもの様にスナップの効いたチョップをロピに対して決めた。


「!? え、なに?!」


 慌てて起きたロピは腰に装着しているスリングショットを抜き構えを取る。


「モンスター!? よし、私に任せろ!!」

「「「……」」」

「お兄さん、モンスターの敵襲だよ!」


 なんて残念な子なんだ……。見た目が美人の上にスタイルも抜群なだけに尚更残念感が強い……。


「ほっほっほ。ロピ殿、良い反応ですな」


 リガスは起きてからの武器を構える反応速度を褒めている様だ。


「姉さんはいつだって戦闘態勢」

「ど、どう言う事だ?」


 チルの謎の言葉に戸惑っていると、ロピも状況が分かって来たのか武器を腰にしまう。


「あ、あはは敵では無かったんだね」

「でも、その反応速度は良いですぞ」

「そ、そうかな?」


 それからは俺達のやり取りを聞いていた他の者達も徐々に起き出して来た。

 まぁ、実際には起きていたのだろうがロピが騒いだせいで完全に身体を起こしている。


「お前達は元気だね……」


 夜の見張りをしていた斥候が俺達を見て呟いていた。


「皆さん、起きましたかね?」


 マーズが声を上げて確認する。


「それでは、今日一日も頑張って生き延びましょう」


 今日は住居班と食料班に分かれる。水に関しては昨日の分をまだ飲み終わっていない事と果物からでも水分が取れると言うこともある為今日は無しになった。


「それでは、アトスさん達は本日住居班でお願いします」


 マーズの指示により住居を組み立てる事になった。昨日作った者達もいる為朝から猛スピードで住居が出来上がって来る。


「すごーい、もう一つ出来たねー」


 朝から作り出して、まだ昼前だと言うのに既に一つが出来上がっている。残り二つを作っても恐らく日が沈む前に作り終える事が出来そうだな。


「モンスターさえ居なければ此処でずっと住めそうだな」

「ふむ。確かに水場も有り果物もあるので、後は動物さえいれば楽園ですな」

「私達が住んでいる所も、いい場所です」

「ほっほっほ。今から行くのが楽しみですな」

「まずは、此処から生き残る事だけに集中しないとな」


 住居作りを手伝うが俺とロピは作業力として一人分程度しか役に立て無かったがリガスは元々の身体能力が高いので二人掛かりで運ぶ丸太を二つ持ち大木を登っていく。


「魔族さん凄いねー」

「元々の基礎値が俺達とは格が違うなー」


 リガスを目で追っていると首が痛くなる程上にスイスイ登っていく。

 そして、リガスより凄い者が居たのだ。


 それは、チルだ。


 丸太をなんと片手で十本程器用に持ち両腕で合計二十本ものの丸太を持ちながら大木を登っていく。


「お、お兄さん、わ、私の妹凄いでしょ?」

「お、おう。さ、さすがチルだな」


 俺達は若干引いてしまった……。身体強化のランクBだとここまで強化されるのか……。


 これ以上丸太が持てないだけで、まだ余裕がありそうだな。


「アトスさん、助かりますよ」


 マーズが俺達に近付いて来た。


「チルさんとリガスさんのお陰で住居が直ぐにでも完成しそうです」


 それはそうだよな、チルだけで一体何人分の作業をこなしていることやら。


 予定よりも早く組み立てる事が出来た住居の最終調整を全員で行っていると、マーズがいきなり叫ぶ。


「皆さん! 木の上に早く!」


 いきなりの事で木の下に居た者達は反応し切れなかったのか、マーズの方を下から見上げていた。


「アトス様、モンスターです……」


 どうやら、ここでもモンスターの気配が多すぎて正確に気配を読み取る事が困難であるようだ……

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