第187話 寝床完成

 小型を倒した俺達はその場を早々と離れて住処に戻る。


「ふぅ……、なんとか戻れたぜ」


 斥候は前方に大木を見つけて一安心したらしい。


「あれからモンスターとも遭遇しないで良かったよねー」

「私的にはもっと戦いたかった……」

「チル様の意見と同じですな」


 そして俺達は大木に戻る事が出来た。


「アトスさん、お帰りなさい。少し遅くて心配していましたよ」


 俺達が戻ると、マーズが近寄って来た。


「悪い、途中小型と接触したり、水場でも色々あってな」

「小型? 水場?」


 詳しく状況を教えて欲しいと言われたので、俺は水場の出来事を話す。


「成る程……。そんなに居たんですか?」

「あぁ。でもアレで全てでも無いな」

「まだまだ、モンスターが居ると?」

「水場から離れる時も絶え間なくモンスターが向かっていたからな」


 水場に集まって来た数が大体五十体くらいだとしても、集まってくる数などを合わせれば、もっと沢山の数のモンスターがこの付近に居るのは間違い無いだろう。


 マーズが顎に手を添えて考えている傍で俺は大木の住処を確認してみる。


「おー! すげぇな!!」


 そこには、木の上だと言うのに平行な床が存在しているのが木の下からでも確認出来る。


「あ、お兄さんこっちこっち!」


 ロピ達が早速木の上に登り様子を見ている様だ。

 クソ……秘密基地みたいでカッコいいな、俺も早く見に行かないとな!


「アトスさん、ならモンス……」


 俺は大木に掴まりよじ登る。何か声を掛けられた気がするが気のせいか?


 実際に登ってみると、更に凄い光景がそこには広がっていた……


「家だな……これは」

「だよね?!」

「これなら、全然住めます」

「ほっほっほ。これなら野宿するより数倍良いですな」


 屋根は無いが、そこはツリーハウスの様になっていた。


「これなら寝転んでゴロゴロしても落ちないな」

「この短時間でここまで出来るなら、私達も帰ったら作ろうよ」

「姉さん、それは良いアイディア」

「ほっほっほ。私も手伝いますぞ」


 確かに、これなら洞窟とかよりも安全かもな。


「気に入って貰って何よりです」


 マーズも登って来たようだ。


「ただ、この面積だとまだ四人程が寝るスペースしか出来てないんですよ」


 三班は約二十人程いる為、これを後四つ作る必要があるな。


「このようなスペースを頑丈そうな枝部分に作っていきます」


 そう言われて周りの枝を見ると、少し上だったり、下だったりに同じくらい太い枝があるので、恐らくそこに作るのだろう。


「本日は、後一つ作ったら暗くなってしまいますが、明日までには全員が寝転がれる場所を確保出来ますよ」


 笑顔で説明してくれるマーズに俺は拍手を送りたいくらいである。

 この様な条件の悪い場所でありながら、快適な場所を提供してくれるなんて、流石は元リーダーだ。


「そして、今日出来る内の一つをアトスさんパーティが使用して下さい」

「え? いいのか?」

「はい、女性が居るので。他のメンバーからの了承は取ってあります」


 この男、出来るだけでは無く気まで効く。


「な、なんですか?」


 俺は無言で拍手を送る。そして俺に続く様に無言でロピとチル、リガスまでもがマーズに向かって称賛の拍手を送る。


「マーズ、おめでとう」

「な、なにがです?」

「貴方は俺達の信頼を勝ち取った」

「リーダーさん、凄いよ!」

「今日は快適に寝られそう」

「これなら、次の日に疲れを残さないで済みそうですな」


 俺達にそれぞれ称賛されるマーズが戸惑っていると、食糧班も帰って来た様だ。


「おう、アトス、マーズ帰ったぜ」

「オイラの収穫を見てくれよ!」


 狩って来た獲物を地面に落とすと、そこには一体のシカが居た。


「おいおい、これしか獲れなかったのかよ?」


 斥候が批難がましく言うと、フィールが反論する。


「しょうがねーだろ、ここらにはモンスターが蔓延っていて、生き物が寄り付かねえんだよ!」


 確かに、ここから水場に行くまでも野生動物は一度も見てないな。


「オイラ達も結構探し回ったけど、全然見つからなかったぜ」


 仮に俺達のパーティが食べるとしたら十分な程の量がある肉だが、二十人となると、少し物足りなさを感じてしまうだろう。


「俺達、本当に生きていけるのか……」

「まぁ、そんなに悲観するなって」

 

 斥候に対してフィールは気軽に肩を叩き、笑い掛ける。そして、肩に掛けている風呂敷みたいなのを開け放つと、そこには果物が沢山あった。


「あー、美味しそうな果物だね!」

「甘そう」


 獣人姉妹の声に他の者達も集まって来る。


「ははは、動物はモンスターの影響で全然居なかったが、果物は逆に腐る程あったぜ!」


 そこには、この場にいる全員がお腹一杯食べても平気な程の量があった。


「おー、これなら……」


 斥候だけでは無く、他の者達も声に出して驚いたりしている。


「お、おいこれなら本当に生き残れるんじゃないか?」

「だよな! 後はクソ野郎を待つだけだし」


 生き残る希望が見えて来たからなのか、皆の表情は生き生きとしていた。


「皆さん、もちろん全力で生き抜くつもりですが、油断は禁物ですよ?」


 浮ついた者達を嗜める様に注意するマーズ。


「よし、これならなんとかなりそうだな……」


 こうして俺達三班はリンクス達と逸れた日から数えて一日目を無事に生き残る事が出来た……

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