第104話 リザードマンの事情

「あ、お兄さんおかえりー」


 俺はグイン達のやり取りを見た後にコッソリ戻った。何やら穏やかでは無さそうな雰囲気だったな。


 嫌だぞ、また何かに巻き込まれるのは……


「アトス様お帰りなさい。どちらにいかれていたんですか?」

「ちょっとみんな集まってくれ」


 そして、俺は三人に今見てきた事を説明した。


「ふむ、何やら厄介そうですな」

「だねー」

「アトス様どうしますか?」

「うーん。みんなはどうだ?」


 どうするか悩んでいると扉をノックする音が聞こえた。


「アトスさーん、今大丈夫か?」


 どうやらトッポとグインが来たらしい。扉を開けて中に入れる。


「どうした、トッポ」

「ちょっと話したい事があるんだ」

「話したい事?」

「あぁ。他の三人にも聞いてほしい」


 俺達は顔を見合わせて、どうするか決める。そして皆が俺の方を見るので恐らく俺が決めろって事だろう。


「分かった。座ってくれ」

「お茶を用意致します」

「リガス、私も手伝う」

「わ、私も!」


 ロピの奴は逃げたくて手伝いに行ったな……。


「急に来てすまねぇ」

「いや、大丈夫だ。それにしてもさっきはいきなりどうした?」

「実はその事についてなんだ」


 トッポの隣に座っているグインはいつもより更に無口である。トッポも言い辛い事なのか、神妙な面持ちで皆が揃うのを待っている。


 恐らく先程のリザードマン達のやり取りについてだろう。暫くしてから全員が席に着く。


「それで? どうしたトッポ」

「あぁ。実はな手を貸して欲しいんだ」

「どういう意味だ?」


 トッポは一拍置いて深呼吸をしてから話し始める。


「俺達の村を見ておかしいと思う所は無いか?」

「うーん、無いと思うけど?」

「私も分からない! チルちゃんは?」

「私も分からない」

「ふむ。女性がいませんな」


 あ! 確かに。この村に来てから女性のリザードマンを一人も見かけてないな。


「そうなんだ。実は村の女達が攫われちまったんだよ……」

「……」


 その話が始まってからはグインの表情がより一層神妙な面持ちになる。


「攫われたって誰にー?」

「もう一つ近くにある村のリザードマン共にだ」

「近くにもう一つ村があるの?」

「あぁ。ここから程良く離れた場所にリザードマンの村がもう一つある」


 どうやら元々は一緒に暮らしていたらしいが、村の権力争いやルールに嫌気を指したグイン達リザードマンが半分程連れてこの村を作ったらしい。


「女性はどうした?」

「女性も半数程、この村に連れてきたんだけどよ、最近アッチのリザードマン達がこの村を襲って来てな……」


 どうやらその際、戦闘している間に別部隊が村人の女性達を全員攫ってしまったらしい。


「戦闘に関してはグインが居たからコチラは怪我人が数人程度で済んだが向こう側は死者が出ちまった」

「そうなんだ……」

「それで向こうも本気になってな。俺達は女達を取り返しに行こうと思い攻めに行ったが、かなり強固な砦が出来上がっててな、村にすら入れなかった」


 グイン達は総出で救出を試みたらしいが、砦などが強固で村に入る前に退散する羽目になったと言う。


「それで俺達に救出するのに手を貸して欲しいって事か?」

「そうだ……。俺達リザードマンがこんな事言える義理じゃねぇーが頼む!」


 恐らく俺達の力では無くリガスの力を借りたいんだろう。リガスはグインですら赤子の手を捻るように倒したのだ。


「ちょっと考えさせてくれ」

「あぁ! 勿論だ。考えてくれる余地があるだけ嬉しいぜ」


 そしてグインが立ち上がり話し出す。


「……俺の嫁と子供も攫われました。どうかお願いします」


 グインは深く頭を下げる。


「先生のお嫁さんと子供もですか……?」

「……あぁ」


 チルは、グインの事を先生と呼んでいるらしい。そしてチルが俺の方を見て頭を下げた。


「アトス様、私からもお願いします。先生達を助けてあげたいです」


 グイン同様に隣に並び頭を下げる。それを横で見ていたトッポも慌てて並び、頭を下げる。


「アトスさん、頼む!」


 ここまで言われたらしょうがないか……。


「はぁ……。分かったよ助けるのを手伝う」


 俺の返答に三人は勢いよく頭を上げて再度お礼を言いながら頭を下げた。


「ほっほっほ。よろしいのですか?」

「チルにあそこまで頼まれたからな」

「お兄さんはチルちゃんに甘いね!」

「ロピ殿にも甘いと思いますぞ?」

「知ってる!」


 よし! そうと決まれば作戦会議だな。


「まずは、相手の戦力がどれくらいか教えてくれ」

「あぁ! 任せてくれ。直ぐに会議場所を用意して村人達を集めてくる!」


 そう言ってトッポは建物から勢いよく出て行った。


「……アトスさん本当にありがとうございます」

「先生良かったですね」

「あぁ。ありがとう」


 そう言ってグインも勢いよく建物から出て行った。


「アトス様ありがとうございます」

「チルの頼みだからな!」

「ふふ、チルちゃん良かったね」

「うん!」

「ほっほっほ。チル様の願いを叶えるのも執事の役目でございますな」

「リガスも宜しくね」

「かしこまりました」


 こうして俺達は準備が整ったとトッポからの知らせを受けてリザードマン達が集まっている場所に向かうのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る