第105話 アトスの鼓舞

「アトスさん並びに皆様、今回は私達の厄介事にもかかわらず手を貸して頂けるとの事で誠にありがとうございます」


 村を代表する者が頭を下げ、それに続くように他のリザードマン達も続いて頭を下げた。その中にはグインとトッポの姿もあった。恐らくこの村の全員がこの場にいるのだろう。村の女性を全員攫われたのだ、皆救出するのに必死だ。


「いや、気にしないでくれ。それよりも早速向こう側の情報が知りたい」

「えぇ。かしこまりました」


 村長の掛け声と共にリザードマン達がテーブルの上に色々広げ始める。それは地図だったり数値が書いたのだったり色々だ。


「まず向こう側のリザードマン達の数は百人です」


 結構多いな……。こっちは俺達を合わせても二十にも満たない。戦力差を考えたら圧倒的に不利な状況だ。


「その人数は男リザードマンだけでか?」

「その通りです」


 かなりの戦力差があるな……。これ勝てるのか?


「ちなみに一対一だった場合の強さは?」

「それなら、向こうの村に負ける要素は無いです。向こうの村で一番強い者でも私達の村では一番弱いです」


 この村に精鋭だけ連れて来たのか?


「なら二対一は?」

「それは厳しいですな……。恐らくこの村ではグインくらいでしょう」

「……私も五人相手するのがやっとです」


 これ普通にやったら勝てなくね?


「リガスは何人相手出来る?」

「ふむ。一度に相手出来るのやはり五人までですな」


 リガスは直ぐに向こうから警戒されるだろう。そしてリガスがリザードマン達を相手している時に俺達の誰かが捕まり命の危険があると分かればリザードマン達に攻撃出来ないだろう。


「ですが、アトス殿が居れば殲滅なんて簡単でしょう」

「買い被りすぎだろう!」

「いえ、アトス様は最強です!」

「そうだー そうだー! 私達のお兄さんは最強最悪だ!」


 ロピの奴……。


「とりあえず、俺達は何をしたらいい?」

「はい。我々と向こうの村に乗り込んでリザードマン達を倒して欲しいのです」

「女性の救出はどうする?」

「我々の数人が担当する予定です」

「分かった。いつ乗り込むつもりだ?」

「出来れば明日にでもと思っております」


 村の男達にはグインの様に奥さんや娘さんを奪われた者達も居るのだろう、早く取り返したいのか決行は明日の夜に闇に乗じて潜入する事になった。

 主にリガスとグインが先陣を切りリザードマン達を倒している内に他の者達は常に一対一の状況を作り出し各個撃破していく予定だ。俺とロピについては離れてサポート役に徹する事になった。


「お兄さん、私達はサポートだね」

「だなー」

「ほっほっほ。チル様と私は突撃ですな」

「頑張る」




 それからあっという間に次の日の夜になり準備に取り掛かっている。準備といっても俺達が用意する事なんて無いので直ぐに終わり今は家でトッポ達を待っている状態だ。


「あーあー。せっかく特訓して強くなろうと思ってたらコレだよ」

「私も姉さんと同じ意見。先生にもっと試したい事とかあったのに」

「終わったらまたやればいいだろ」

「気分の問題だよ! それにお兄さんが言ってた宛はどうなったの?」

「あれは、ここではどうにもならない事が判明した……」

「え!?」


 ロピは勢い良く立ち上がり座っていた椅子を倒すが気にもせず俺に詰め寄ってくる。


「どういう事?! 私は早く強くなりたいんだよー!」

「お、俺が考えているのに必要な材料が、どうやらここら辺に無いぽいんだ。リガスが探してくれたんだが見つからなかったそうだ」

「ロピ殿申し訳御座いません」

「魔族さんは悪く無いよ! けど、せっかく強くなれると思ったのに……」

「だから、この件が片付いたら次はロピの為に、その材料がありそうな場所を探しに行こうと思っている」

「家に戻らなくてもいいの?」

「今更少し寄り道した所であまり変わらないだろ」

「ありがとう!」


 ロピは嬉しいのかチルの所まで駆け寄って抱きついた。そして抱き着くだけでは物足りなかったのか頬っぺたにキスの嵐を降らしてチルにゲンコツを食らっていた。

 そしてこれからの事など話し合っているとトッポとグインがやって来る。


「アトスさん準備出来たか?」

「あぁ。大丈夫だ」

「なら広場まで来てくれ」


 俺達四人は広場まで行くと武装しているリザードマン達が既に整列していた。装着しているのは闇に紛れやすい様になのか黒い。そして各々武器は違うがやはり黒い。


「アトスさん達はそこに並んでくれ」


 何故かリザードマン達が整列している中央を勧められた。そして俺達が並び終わると同時に前に居るトッポが話し始める。


「今宵、俺達は鬼神となり女達を取り戻す!!」


 気合いの入ったトッポの掛け声に同調

する様に周りのリザードマン達は武器を地面に当てて音を鳴らし鼓舞する。


「相手の人数は百! こちらは二十にも満たないが心配するな! 今回は強力な助っ人が四人もいるぜ!」


 武器を打ち鳴らす音が一段と、大きくなりリザードマン達は周りに響く様に武器を上下に振り、音を鳴らし続ける。


「アトスさん一言くれ」


 おいおい、無茶振り過ぎるだろう……。俺こういう人の前に立ってスピーチとかするの苦手なんだよ!

 無理です! って言える雰囲気でも無く仕方なく前に出る。


「お兄さんファイト!」

「アトス様なら大丈夫です」

「ほっほっほ。こういうのも慣れですぞ」


 三人は気楽なもんだな……。


「えー。俺達も頑張るから皆んなも頑張ってくれ」


 緊張して、しょうもない事を言ってしまった……。こんな大事な場面でこんな気の抜けた事を言ったら士気が下がるよな……。俺は自分自身の不甲斐なさに落ち込んでいると、リザードマン達は武器の打ち鳴らしを止めた。そして全員が一斉に叫ぶ。


「「「「「「「おう!!」」」」」」」

「アトスさん流石だぜ!」

「え? え!?」

「要は俺も本気で望むからお前達はお前達で自身の限界以上の力を発揮して事にあたれって事だろ!?」

「アトス様……、名言頂きました……」


 チルは膝を着いて俺に対して祈り始める。そしてそれを見ていたリザードマン達までもがチルの行動が何を意味しているかは分からないが真似をして俺に祈りを捧げるポーズを始めた。

 そして場の空気を読んだのかロピとリガスがお互い顔を見合わせて二人同時に頷き合うと周り同様に俺に対して祈り始める。


 クソ! ロピとリガスは覚えとけよ!


 それから何度止めろと言っても止めず暫く状況が続いたがチルが祈りのポーズを解くとリザードマン達も手を解き立ち上がる。


「はは、アトスさんはスゲーカリスマだな!」

「お前も止めろよ!」

「ワリー。こういう戦闘前は士気が大事だからな、利用させて貰ったぜ!」


 トッポは悪びれもせず、カラカラ笑いながら謝ってきた。


「それじゃ、向こうの村に向かうぞ!」

「「「「「「「おう!!」」」」」」」

「まだ距離はあるが念を入れる為に村を出たら出来るだけ静かに向かうぞ」


 俺達は村を出て女性達が攫われた村に向かった。

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