第79話 チルと魔族
「なんか、怒声が聞こえる」
「そうですな。お嬢さん今日は祭りか何かあるのですか?」
「ううん、聞いてない」
私はリガスと話し込み、そろそろアトス様と姉さんの所に戻ろうとした時に外が騒がしい事に気付いた。
「ちょっと、様子見に行ってくる」
「それでは、私もいきます」
そう言って、リガスは平然とした表情で牢屋を破壊して出てくる。
「……いつでも抜け出せたの?」
「お嬢さんのお陰ですよ」
リガスはこぼれる笑顔を見せる。この場におじさま好きの女子が居ればイチコロだっただろう。
「では。いきましょう」
「うん」
リガスと一緒に外に出た。そうすると、怒声の声は更に大きくなり、耳を澄ませてみると、どうやら戦闘を行っている模様だ。
「誰かが戦っておりますね」
「様子見にいってみよう」
「かしこまりました」
私とリガスは気配を消して戦闘が行われている場所に向かう。近づくに連れて誰が戦闘しているか見えてきた。どうやらオーク族とゴブリン族が戦っている様だ。
「ほっほっほ。あの一回り大きいオーク以外は大したことない者ばかりですな」
私から見たら、オーク族の方は全員凄く見えるが、リガスから見たらそうでも無いらしい。
「アトス様と姉さんを探さないと」
「私も手伝いますよ」
二人して移動を試みようとした際にリガスが何かに反応する。
そして、少し遅れて私も反応する。
「「ッ!?」」
何かがこちらに向かってくる気配を感じて、気配の方に顔を向ける。
「どうやら、モンスターがこちらに向かっておりますな」
「やっぱり?」
「オーク達は気付いて無いようですが、ゴブリン達は気付いているみたいです」
ゴブリン達の方に耳を澄ませてみる。
「皆さん、目的完了です!! よくやりましたね!! 全員逃げる準備を!」
グダがゴブリン達に声を張り上げて逃げる様に指示している。
「お嬢さん、どうやら来たようですよ」
リガスの言葉に合わせて茂みから小型が現れる。
「小型……」
「そうですね。小型の中でも、まだ小さい様に見えますな」
「リガスは、小型倒せる?」
「流石に一人では倒せませんね」
小型は、どうやらディングを執拗に狙っている。
この結果もゴブリンの作戦通りなのかは不明だが、ディング達オーク族が小型に応戦している間にゴブリン達は村から逃げ出した。
「お嬢さんどうしますか?」
「……アトス様と姉さんを探す」
「かしこまりました」
私とリガスはオーク達が小型の相手をしている間にディング宅に向かう事にした。
「では、気配を消して私の後に付いてきてください」
「分かった」
リガスは長生きしている魔族の為私の知らない事を沢山知っていた。それは戦闘面でもそうだろう。私は素直にリガスの言う事を聞き後をついていく事にした。
移動しながらも、オーク達の戦闘を見ていると、どうやら劣勢らしい。
何故かオークの人数が少ない。その為小型に攻撃が通らない様だ。
ディングがメインで攻撃をしているらしいが、やはり陽動が足りないのか小型の攻撃がディングにかなり集中している。
「リガス、何であの一回り大きいオークばかり執拗に小型は狙らっているの?」
「ふむ。あれはですね、小型が認知している範囲の中で一番珍しいスキルを使用したからですな」
「?」
ん? どう言う事なのか分からない……。
「モンスター達は、スキルの珍しい者を狙う習性があるんですよ」
「そうなの!? 知らなかった……」
「ほっほっほ。この事はあまり知られていませんな」
なら、アトス様が危ない! 私が動揺しているのが、分かったのかリガスが更に情報を提供してくれる。
「ただ、スキルを使用していないならモンスターに気づかれません」
「……でもいつアトス様がスキルを使用するか分からない!」
「その、アトス様のスキルは珍しいんですか?」
「うん。ランクが凄く高い」
「なるほど……少し急ぎますか」
私とリガスは更にスピードを速めてディング宅に向かったが、建物内には既にアトス様と姉さんは居なかった。
「アトス様! 姉さん!」
「……人の気配を感じませんね」
「どうしよ……」
二人が居ないことにより、どんどん焦る気持ちが増してきた。
「もしかしたら、お嬢さんを探す為に村を探し回っているかもしれませんね」
「うん。村を探そう!」
「かしこまりました」
リガスはこんな状況だが、余裕ある態度で私に頭を下げて了承した。
ディング宅を出て村を歩き回り、再度リガスが囚われて居た建物まで確認したが、アトス様と姉さんを見つける事が出来なかった……。
そして、再びオーク族と小型が戦闘している場所まで来て見ると……。
「居た!! リガス! あそこにアトス様と姉さんが居る!」
「ほっほっほ。良かったですね。お姉さんはあの方ですね。似ているから分かります。アトス様と言う方はあの人間族の子供ですかな?」
「そう! 見た目は子供に見えるけど私達より年上だよ!」
二人を見つけた事により、少し心に余裕が出てきた。
「リガス! 私は二人に合流するから、あなたは逃げて良いよ!」
「ほっほっほ。お嬢さん改めて聞きましょう。私に何か出来る事はありませんか?」
リガスは口調は笑っているが表情は真剣そのものだ。
「……いいの?」
「何がですかな?」
「……アトス様と姉さんを助けるの手伝って!」
「ほっほっほ。かしこまりました。ただし条件がございます」
「なに?」
「私は根っからの執事体質でしてね……。ご主人様の為に尽くすのが生きがいなのです。良ければお嬢さん、私のご主人様になってくれませんか?」
私がご主人様?!
「え? でも、なる理由が無いよ?」
「いえいえ、あのままでしたら私は奴隷にされていたか、野たれ死んでいたのですから、お嬢さんは命の恩人です」
少し前にも、リガスは同じ様な事を言っていた。私としては自分自身と重ねてしまったので、勝手に助けただけなのだが……。
「リガスがそれでいいなら。私の執事になって、私達を助けて!」
「かしこまりました。チル様……」
そして、リガスは目にも止まらないスピードで小型に向かって走り出した。
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