第78話 グダの策略

「雑魚共が、一掃してやる!」

「不味いッ! 皆さん離れなさい! スキルが飛んできますよ!」


 モンスターが近づいて来ているが、双方は戦いに夢中でモンスターに気付いてない。

 そして、ディングはスキルを使用する為に、今までより更に重心を低くして片方の足に力を入れている。


「オラッ!!!!!」

「前衛! 避けなさい!!」


 前衛に居たゴブリン達は、それぞれ地面に倒れこんだり、転がったりと、追加攻撃が来る可能性が有るというのに、それすら意識してられない程の攻撃が自分達に放たれている為、必死に避ける。


 ディングの渾身のかかと落としが、地面に突き刺さる。

 先程の棍棒攻撃みたいに、地面が盛り上がり弾け飛ぶ!

 だが先程とは威力が段違いだ。地面は人が一人入れるくらいエグれており、相当な威力が窺える。


「皆さん、目的完了です!! よくやりましたね!! 全員逃げる準備を!」

「目的完了だ? この有様を見てよく吠えるな!」


 ディングは更に追撃しようと構えを崩さず、そのまま一人のゴブリンに狙いを定める。

 一方、ディングの攻撃を躱した事により体制を崩したゴブリン達は直ぐに立ち上がり見栄えなど関係ないと言う程見事な逃げ姿だ。


「お兄さん! 私達は早く牢屋に向かわないと!」

「あ、あぁ。チルを探そう」


 振動が徐々に大きくなり、通常では考えられない程地面も揺れ始めた。そこでやっと、ディングとグダは異変に気付く。


「!? なんだ、この揺れは……」


 ディングは追撃を一度止めて振動するがする方向に向いた。


「皆さん! 来ましたよ!!」


 ゴブリン達は振動の正体が分かっているのか、全員が全力でディングから離れている。

 俺とロピもゴブリン達を追うように逃げる。

 

 そして、とうとう姿を現した。


「ディング様! 小型です!!」


 ジャングルの茂みからモンスターが現れ、ディング達の方に向かって来る。


「ッグダの奴め、これを狙っていたのか……? お前達慌てるな! 迎撃するぞ!!」

「「「「「おう!!」」」」」


 ディング達は直ぐに小型に向かって走りだし攻撃を始めた。


 そして、グダ達ゴブリン達の姿は、既に見えないが、恐らくこれが作戦だったのだろう。


 小型をディング達に押し付けて逃げ出す。そしてディング達オークはゴブリン達の夜襲により半分程までになっている為小型を倒しきれるか不明だ。


「お兄さん、牢屋見えてきたよ!」


 俺とロピもディング達から離れて、魔族が囚われている建物まで到着した。

 ロピは建物の扉を壊しそうな勢いで中に入ってチルを探し始める。


「チルちゃーん! 居たら返事して!」


 俺も中に入りチルを探すが、チルと魔族の姿が見つからない。


「お兄さん! チルちゃん居ない!」

「こっちもだ! 他を探すしかない」


 俺とロピは建物から出て再び村の中を探し始めるが、見える範囲には見つからない。


 そして、ディング達が小型と戦闘しているが、状況は芳しく無い様だ……。


「同胞達よ、左右に分かれて攻撃を仕掛けろッ」

「「「おう!!」」」


 ディングがスキルを発動させたのか、足元が淡く光り始める。

 そして人間とは思えない速さで正面から小型の頭付近に先程のかかと落としを食らわせるが、小型には効いてない様だ。


「クッソ!! 人数が少な過ぎて攻撃が通らん。非力なゴブリン共め」

「ディング様! このままだと犠牲者が出ますがどうしますか!?」


 緊迫した状況だが、日頃の戦闘の成果なのか戦闘しながらも作戦会議を開いている。


「逃げるしか……無いな……」


 ディングは退去を選択した様だ。そして、決断してからは早かった。


「同胞達よ! 逃げるぞ!!」


 ディング達は逃げ出すが、小型はディングをターゲットにしている様で追いかける。


「クソ! コイツなんで俺だけ追いかけて来る……」


 何故か小型はディングの事を執拗に追いかけている。

 何かしらディングに惹かれる理由があるのか?


 オーク達はディングが囮になっている間、小型に対して絶え間なく攻撃を放っているが、やはり人数が少ない為か有効打は一度も無い様だ。


「マズイな……。このままだとオーク族が全滅する……」


 ディングは状況を改善出来る事は無いか辺りを見回す。そして、隠れていた筈なのにディングは俺達を見つける。


「同胞達よ、攻撃の手を緩めず移動するぞ!」

「「「おう!!」」」


 ディングは小型を引き連れながら、俺とロピの方に向かって来る。


「あ、お兄さんもしかしてバレた?」

「どうやら、そうらしい。逃げるぞ」

「う、うん」


 俺達はオークと小型に背を向けて走り出す。


「アトスよ! 頼む! 手伝ってくれ」

「……」


 後ろから、ディングの懇願するのが聞こえる。


「ア、アトスよ我らオーク族は、あの矮小なゴブリン達に嵌められて全滅してしまう。どうか助けてくれ」


「お、お兄さんどうする?」

「……はぁ……仕方ない。ロピ手伝うぞ」


 他人なら、見捨ていただろう。だが、少しの間だが関わってしまった……。


 この考え方は、この世界で危険だ。だが、ここら辺の思考は前世が影響しているんだと思う。


 前世では人の生き死になどを選択する場面などは皆無だった。そして、そんな平和な世界観で二十年以上生きていたのだ。


「多少関わった者を目の前で見殺しにするのは、流石に気が引けるよな……」


 全く知らない人なら心も痛まない程度にはこの世界に染まったつもりだったが……。


「こんな所を見られたらシクに怒られるだろうな」

「ん? お兄さん、なんか言った?」

「いや、何でもないよ。ロピ迎え撃つぞ!」

「はい!!」


 俺とロピは戦闘中のディング達に合流した。

 チルの事は心配だが、小型とオークをここで惹きつけとけば、ゴブリン程度ならチル一人でも余裕だろう。そして何かあった際は対処出来るだろう。

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