第8話 シクの思い

 アトスは賢い。

 私が親バカなのは分かるがそれを差し引いてもアトスは賢い子だ。


 今より更に小さい頃からアトスは幼いながらも、常に何か目的を持って行動している様に見えた。


 何故アトスがあんな所に捨てられてたかは不明だが拾ったあの日から私はアトスを立派に育てようと決心した。


 「アトス、またスピードが落ちているぞ」

 「はぁはぁ…昨日の…筋肉痛が……」


 アトスは何故か私の教えた覚えの無い言葉を使ったり知らない事を言ったりする。


 「何故、体力が必要なのかは教えたはずだ。いいから走れ」

 「……」

 「何か言ったか?」

 「?! いえ、何も言ってません」


 アトスはそう言ってスピード上げて走り始めた。

 ……まったく。あの子は顔に出やすい為考えている事がすぐ分かる。

 そこが、また扱いやすくもある。


 私は親に捨てられてから表情が乏しくなった。


 私が笑う時は少ない。


 また、私には妹が居た。今頃、妹は何をしているか、アトスを見ていると思ってしまう。



 「シク! あとどれくらい走ればいいんだよ?」

 「私がいいと言うまでだ」

 「はぁはぁ…なんだよそれ! 虐待だ!」

 「何を言う。私ほどお前を愛している者はいないぞ」


 なんだかんだ言って、アトスは走るのをやめない。

 

 いい子だ……。


 私が唯一笑顔になる時はアトスの事を考えている時とアトスの寝顔を見ている時だけだ。

 アトスには見せた事は無いがな……


 私が考え込んでいる事を良いことにアトスの奴止まって休憩しているな。

 私は愛の鞭と言う名のゲンコツを食らわす。


 「イ?! ッテー!!」

 「サボるんじゃない」


 こちらを可愛い顔で睨みながら、また走り始めた。


 私は獣人族が嫌いだ。私を捨てた親が獣人だからだ。

 この世界では人間族が一番多い。そして他種族から一番恨まれているのも人間族である。


 理由は、人間族が住んでいる場所のみ国、都市、街と言っても遜色の無い規模であり、また人間族は自分達以外の種族を奴隷として扱っているからだ。


 人間族が住処にしている場所は少し特殊であり、モンスター達の影響を受けにくいのである。

 なので、奴隷になる事が分かっていても他種族は人間族の住む場所に集まってしまう。


 奴隷としての扱いについては千差万別で運に任せるしかないらしい。

 運が良ければジャングルで暮らすより、よっぽど良い生活を送れると聞く。

 だが運が悪いと使い潰されて生涯を終える。


 そんな事から他種族は人間族を恨んでいる者が多い。

 人間族の住む場所で活躍している他種族も居るらしいが極少数との事。


 私は捨てられるまで親に人間族だけは信じるな! すぐに騙されて奴隷にされるぞ! って脅されてたものだ。

 だが、私自身は人間族達よりも獣人族の方が嫌いだし恨んでいる。


 「はぁはぁ……シク調子悪いなら今日はやめても良いぜ?」


 アトスが期待した顔で走りながらこちらを見る。


 「……走りなさい」

 「ちぇーー」


 あんな事を言っているが私の事を心配してくれているかと思うと、本当に可愛い。


 今までは私以外の全ての者たちなんて、大っ嫌いだしどうでも良いと思っていた。


 私の事を捨てた父親と母親が嫌い……そして、何の恨みも無いが、両親に捨てられなかった妹も嫌い……


 妹に対しての感情はお門違いかもしれないが、幼い頃にジャングルに捨てられた私からしたら、仕方ないと言えるだろう……


 だが、アトスだけは別でアトスは私の全てになっている。


 これからもどんどんアトスを鍛えて、この厳しい世界でも生き抜けるようにしてやると心に決める。

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