第9話 モンスターの気配

 午後の訓練で走り込みが終わり今は休憩中だ。

 こんなに、走り込んだ事なんて生きてきた中でなかったぞ……


 午後の訓練からシクの様子が少しおかしいが大丈夫だろうか。


 「あーー、それにしても疲れた」

 「明日も走るからな」

 「無理だーー」

 「無理でも走るんだ」


 あれー? なんかいつもと変わらなくね? 心配して損したな。


 「よし、休憩終わりだ」

 「もうかよ。もっと休憩しよーぜ」

 「短い休憩時間でも、体力を回復させるのも訓練だ」


 そう言ってシクが歩き出す。

 また訓練の最後としてジャングルを歩き回る。

 走った後にこれは地獄だな。


 「よし、最後にまたジャングルを歩き回り生き抜く知恵を学ぶぞ」

 「今日はお休みで明日からって事には……?」

 「……」


 シクがジト目になり、無言でこちらを見ている。


 「な、ならないですね。わかります」

 「冗談は帰ってからにしろ」


 シクはそのままジャングルの奥に歩き出した。


 「そういえば、シク。このジャングルにはモンスター以外に何がいるの?」

 「ここの付近だけで言えば、イノシシやシカ。肉食動物から草食動物まで色々居るぞ」


 あれ? そういえば普通にイノシシとかシカなどを食べてたけどジャングルに居るものなのか?

 ここは前世の常識と同じでは無いから居てもおかしくないか?


 そんな事を考えている内に今日はジャングルで食べられる植物などを学んだ。

 見た目はキノコだったり山菜だったり色々あったがこっちの世界のキノコなどは前の世界よりデカイ。

 山菜や動物なども前の世界よりも明らかにデカイのだ。


 「こんなに大きいキノコだったら一個取れば晩御飯になるくらいだな」

 「確かにな、キノコ一つで私とアトス分の晩御飯には充分だな」

 「でも、俺はキノコだけとか無理だから肉も頼むよ?」

 「私の言う事をよく聞くなら前向きに検討してやろう」

 「お母様、さ! 次は何を教えて頂けるのでしょうか!」

 「調子の良い奴め」


 シクに色々教えて貰いながらジャングルの奥にどんどん進んでいく。


 「シク、そんなに住処から離れて大丈夫なのか?」


 自分達が住む場所からどんどん離れていく事に心配になり、シクに質問してみる。


 「大丈夫だ、帰り道は覚えている。心配するな」

 「シクは凄いよな。俺なんて少し歩いたら、もう自分の家がどこか方向分からなくなるよ」

 「慣れもあるが、種族的違いもありそうだな」


 身体能力も高いし、気配察知なども出来て獣人族最強じゃね?!

 

 獣人族のシクは道に迷わない。

 なんの目印も無い場所なのに道に迷った所を見た事ない。


 羨ましい……。俺は人間族である為、嗅覚や身体能力、第五感的なのは獣人族に比べたら微々たるものしか持ってない。


 「なぁ、シク」

 「なんだ?」

 「シクがいつも気配的な? のを探っているやつどうやってやるんだ?」

 「どうやっていると言われてもな……」

 「勿体ぶらないで教えてくれよー」

 「別に教えたく無い訳じゃなくて、このジャングルで生き抜いている内に勝手に身についたものだ」


 シクは動物などを見つけるのが早い。

 野生の動物より早く相手の気配を感じて狩を行うので、野生動物からしたら脅威だろ。


 俺の予想だが、恐らくモンスターの気配も気付いているはず。

 

 だが、敢えて俺に悟られない様にモンスターの気配を感じでも毎回隠して、遭遇しない様に移動していると俺は推察している。


 「アトスもその内に身につけられるさ」

 「人間と獣人だと出来る事に違いとかあるの?」

 「そうだな、身体能力や第五感などは基本的に獣人の方が優れているし、他の種族と比較しても人間族は低いな」

 

 人間族いい所無くね……?


 「なら、人間族の優れている所は何?」

 「……数だな。後は住んでいる場所」


 なんか、人間族は良いイメージが無いな……。


 「種族の説明も講義でやる。確かに種族での比較をしたら人間族は身体能力とかでは他種族に劣る」

 「なら、俺もシクみたいに木から木に飛びうつれないのか……」

 「いや、スキルの効果によっては種族の能力差など簡単にひっくり返る」


 お?! ここでまたスキルの話題が!


 「スキル! シク、早くスキルについての講義してくれよ」

 「分かっている。近い内にするから落ち着け」


 クソ……早く説明を聞きたいがダメだったか。


 そんな事を考えながらシクとジャングルを歩き回った。


 「?!」


 シクがいきなり動きを止めた。


 「どうしたんだ?」

 「シッ!」


 いつもにも増して鋭い表情をして俺の口を塞ぐシク。


 「モンスターだ……」

 「え……?」


 俺は呆けた声を上げてしまった。

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