つよさとよわさ

 女の子が恋叶わなかったときに切る髪の毛は綺麗な気がする。夕方の花屋のようないい匂いが情景に浮かぶ。ついつい誰しもがどこか昔を振り返ってしまう。結局いい思い出だったとすべてを忘れさせてくれそうな、そんな感じ。恋に夢見る少女たちは、ハッピーエンドよりもむしろ「あの人は忘れて、次頑張れ私!」な展開に憧れているのではなかろうか。その真相は当の本人たちにも分からない。男の恋叶わぬが故の断髪もある。女の子の切り替えカットの限界点が首くらいのものだとしたら、元から短髪の、男児のそれは行けるとこまで行くのが筋なのである。出家するかの如く眼力に物を言わせて頭を丸めてやらねば、大いなる夜に飲み込まれてしまいそうになる。つまりは自己防衛、自分のうちにある大切な何かを守る為に髪の毛を刈るのだ。頭の真ん中から削られていく無様な落ち武者姿を、鏡越しに相見えて、ようやく笑うことができるのだ。女の子の涙は立派に闘った勲章、思う存分泣けばいい。しかし男が振られたからといって流す涙は、絶対にあってはならない。女の子が優しく包み込むように許したとしても、それは自分との戦に白旗を揚げることであり、“自分”を治める一国一城の名高き当主として、絶対に負けられない。だからこそ笑わなければならないのだ。ぼくはそんなことを言って何回、頭を丸めれば気が済むのだろうか。来年からはサラリーマン。頭を丸めることが許されなくなったぼくは、どうすればいいのだろうか。

 

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