思春期

本屋 太郎

珈琲とロマンチック

 そのまま湯船として代用できそうなくらいにまで冷めたコーヒーを一杯すする。その味の感想は、自身に対しての自信のなさからくるものなのか、物足りない。珈琲を最近になって飲みはじめた素人目線からの感想、味わいが浅い感じ。煎れた人の性格が味に現れるならば、ぼくは“珈琲”にまんまと見透かされているのだろう。子供のころに飲んだあの頃の珈琲はもっともっと苦くて濃いもので、大人の象徴であった。それが今じゃ苦みというものに鈍感になって、まるで小さい子がカルピスを割るような感覚で珈琲を煎れて飲んでいる。ぼくが飲みたいのは、お湯に黒色の苦さを足したようなものじゃない。余裕と貫禄を男の浪漫でドリップしたようなあれが飲みたいんだ。等に冷めてしまったカップからはもう湯気はでない。足先が冷たくなってきた。もう冬。遠くのほうで踏切の音が聞こえてくる。二十二歳、童貞。大人になりたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る