第2話 俺の名は?

 俺と王様、その他大臣と思われる人が数人、円卓の椅子に座った。

 俺の椅子はおそらく上座と思われる。他のものと比べると豪勢な椅子だった。おそらく王に近い権力者の席なのだろう。


「さて、王よ。我々は何も聞かされていなのだが」


 髭をえらく蓄えた男が言う。見たところ50代だろう、今までの苦労が目に出ている。


「あぁ、そうだったな。しかし、私の口より彼に話して頂くのがはやいかもしれん」


 王は俺にお願いできますかなと言う。断るわけにはいかないので、頷き、口を動かす。


「まず、簡単に言うと、俺は放浪人だ。だが、そこらの放浪人と違うのは圧倒的な力を備えているということだ。しかし、最近だな、力を使い破壊するのも、救うのも、もう飽きた。そこで俺は決めた。通りがかった国を見極め、それが俺の適する国だと思えば、強くしてやろうとな」


「この国はあなた様に適した国ではありますのかな?」


 少しハゲが目立つ大臣は言う。


「そうだ。最初のほうは王も兵士も態度が悪く、ファブドラゴンで破壊してやろうと思ったのだがな。しかし、あれは転生魔法でいきなり玉座に出てきた俺が悪かったからな。その点で考えれば、強くしてやってもかまわないという思いが出たまでだ」


 あたりの大臣は声を上げる。うむ、どうやらこの世界には魔法もあるようだ。うまくいっている。


「だが」


 これだけ言っておかないといけない。


「俺がいくら最強と言えども、兵士に魔法をかけて強化できるわけでもないし、俺式の訓練をしても、ついていけるはずがない。その点を踏まえ、貴様らの返事が聞きたい」


 大臣たちは『だったらあれがよいのでは』と耳打ちしあっている。その声は王に届き、確かにそうだなと頷いた。

 王は話す。


「そのですね、我々の国には代々勇者属性を持つ人間がでてくるのですが、近年、モンスターのレベルが上がってきまして、最初の壁が越えられないという現象が出ているのです」


 モンスターにレベルとかあるんだ。


「つまり、あれだな。俺にその最初の壁を超えさせる手助けをしてほしいということだな」


「その通りです。そして、できればその後もお願いしたい」


「しかしだな、勇者属性を持つ人間が強くなったところで、一国を担えるのか?」


「担えます」


 王様はきっぱり言う。なに、そんな強いの?


「最強となった勇者は小国を一つ滅ぼすことができると言われています。ゆえに、逆も然りなのです。我々ほどの国であれば、強き勇者がいれば最強となるでしょう」


「なるほどな」


 腕を組み、頷く。


「ふむ、承知した。よかろう、その計画に乗ろう」


「助かります」


 王は円卓に両手を載せ、頭を下げる。


「では早速、当事の子をお呼びいたします」


 大臣は二度手を叩く。おそらく、呼ぶサインなのだろう。

 しばらくすると、扉が開いた。

 そこから出てきたのは、まだ幼い、15ほどの少女だった。目は青で、髪は金だ。顔立ちは大変整っていて、いつしかオランダに出張した時に見た、大手ワイン会社の広告ガールに似ていた。


「失礼いたします。おじい様」


 礼儀正しく頭を下げる。今思えば、この国は非常に礼儀と言うのが蔓延している。兵士も大臣もそうだが、みんな相手に対し、心からの敬意を払った礼をする。逆異世界転生しても、生きていけそうだな。


「おぉ、来たか、クオリア。よいか、この方はお前を強くしてくれる偉大なる先生じゃ。いや、救世主様じゃ」


「それは、なんと」


 そのクオリアと呼ばれる少女は俺の目を見る。その澄んだブルーの瞳は空に近い色で見ていると吸い込まれそうだった。


「私はクオーリア・シオグレンと申します。至らぬ点は多々ありますが、今後ともよろしくお願いいたします」


 ほんと綺麗な言葉遣いだな。感心する。


「あぁ、任せな」


 プランゼロで、無能力者の俺がどうにかしてやるよ。

 …もうそろそろ詰みポイント来たかな?


 大臣たちは席から立ち上がり、『当分は国家も安泰かもしれませんな』と笑いながら出ていった。

 俺も逝く(行く)かな。

 そう思ったときに、少女に呼び止められた。


「あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


 そうか、名前か。本名でもいいんだけどな、さすがに俺の名前は日本らしさが出ていて、どこか聞き取りにくいかもしれない。

 となれば、俺も横文字ネームが必要だ。そうだな…。

 なら、せめてものの、償いで。


「ライアーでいい」


 この日から俺は自身のことをライアーと名乗ることにした。

 ちょっと、痛すぎる...。


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