第2話 少女は無事に転生しました
目を覚ますと私の目の前には視界に収まりきらないほど大きな門がありました。その両脇では槍を持った男性二人が怖い顔で仁王立ちです。怖すぎて後ずさってしまいました。
そして先程から目の前にある門の中は国でしょうか?神様には何も説明されていないので全く分かりません。言葉が通じるかすら不明です。
ですが意を決した私は門へと近づき、怖い顔の男性に話しかけます。私偉い。
「すみません、つかぬ事をお聞きしますが、ここはどこですか」
そう尋ねた私を見るおじさんの目はまるで馬鹿でも見るかのようなものでした。私そんなに変なこと聞きましたか?
「お嬢ちゃんは何を言ってるんだ、ここは王都ウォルバードだよ。まさか知らないのか?」
まさかの王都さんでしたか、それならさっきのおじさんの目も納得ですね。
「森の奥でずっと暮らしていたので国とかあまり詳しくないんです」
「そうだったのか。なら仕方ないな」
とっさの判断が上手くいったようでおじさんは納得してくれました。
「それでお嬢ちゃんはこの国に入国したいんだよな?」
「そうですね」
「それなら何か身分を証明できるものは持ってないか?」
「そんなのが必要なんですか⋯⋯」
転生して間もないのにそんなもの持ってるはずないじゃないですか。そんなものが必要なら神様に用意して欲しかったです。気が利きませんね。
「もしかして持ってないのか?」
「⋯⋯残念ながら持ってないですね」
突然のピンチに困り果てていると、おじさんも困った顔をしてしまいました。
「お嬢ちゃん、もしかしたらそのリュックの中を探したらあるかもしれないぞ、一回見てみたらどうだ?」
おじさんは赤ん坊をあやすような優しい声でそう言ってきました。ですが言っていることが意味不明です。私リュックなんて持ってないんですけど⋯⋯。
「おじさん、私リュックなんて持ってないですよ。どこ見てるんです?」
「じゃあ嬢ちゃんが背負ってるのは一体何なんだ?」
「背負ってる?」
もしかしたらこのおじさんは私には見えていない何かが見えているのかもしれませんね。怖いです。
だってさっきから肩に重さや違和感なんて一切感じませんし⋯⋯。
⋯⋯端的に言いますとありました。なんとそこにはリュックがあったのです。しかも小さなリュックではなく、私の身長の二倍くらいの大きなリュックです。よくこんな大きなものを背負えてましたね私。まさか本当は超力持ちだったり?
リュックの中を覗いてみるとそこには異次元が広がっていました。汚すぎて異次元とかそういう話じゃなくて、本当に永遠と続く空間がそこにはありました。例えるならドラえも〇が持っている四次元ポケッ〇のようでした。
神様からのプレゼントでしょうか?まあ十中八九そうでしょうね。
ですがリュックの中には塵一つ存在していませんでした。使えませんねコイツ。
「探したけどありませんでした⋯⋯」
「じゃあここで作るしかないな、少し時間がかかるけどいいか?」
「国に入れるなら時間なんて惜しみませんよ」
それを聞いたおじさんは私を連れて門の横にある建物に入りました。中には椅子と机しかなくて他には何もありませんでした。
「そこの椅子に座ってこれを書いてくれ」
そう言うと、おじさんは私に紙とペンを渡しました。紙には名前や性別、職業などなんの変哲もないことを記入するようで、私はスラスラと記入していきます。
⋯⋯ていうか、なんで私は当たり前のように異世界の文字が読めてるんですか?言葉も話せてましたよね?まさか神様がやってくれたんですかね⋯⋯。もしそうだとしたら、さっき気が利かないって言ったことを謝らないといけませんね。ごめんなさい。
「記入し終わりました」
「おお、早かったな」
紙を渡すと、おじさんは上から目を通していきます。変なことは書いてないのできっと大丈夫ですね。
ですがおじさんは不審そうに私を見てきました。なんでですかね?思い当たる節はありませんけど。
「お嬢ちゃんの出身地の『日本』ってどこだい?聞いたことのない地名だな。
おっと、ここが異世界だってことをすっかり忘れていました。
「すごい遠くの国なんです。だから聞いたことなくて当然ですよ」
「遠くの国か⋯⋯、それじゃあ仕方ないな。でもお嬢ちゃんは名前も珍しいな。その国ではこういう名前は普通なのかい?」
出身地は分かるとしても、名前まで珍しい扱いですか⋯⋯。一体この世界の人はどんな名前なんでしょうね。気になります。
「私の国では一般的ですよ。こちらではそんなに珍しいんですか?」
「俺の知っている限りこの国にこんな感じの名前の人間はいないから、多分相当珍しいと思うな」
日本人みたいな名前の人がいないって、私最高に浮くじゃないですか⋯⋯。偽名を使うことを検討しましょう。
その後おじさんは、「身分証明書を作ってくるから少し待っててくれ」と言い残して部屋を出ていきました。
それから十分後くらいにおじさんは一枚のカードを持って戻ってきました。
「ほれお嬢ちゃん、これが身分証明書だ。無くさないように気をつけろよ」
「分かりました。ありがとうございます」
私はそれを受け取るとすぐにポケットにしまいます。無くしたら最悪ですから。
「それじゃあお嬢ちゃん改めて王都へようこそ。存分に楽しんでいってくれ」
「そうさせていただきます。証明書助かりました」
「いいってことよ。それも仕事のうちだからな」
「そうだ、料金とかはかからないんですか?」
「ああ、その事なら⋯⋯」
まあ色々とありましたが、無事に王都に入ることができました。本当によかったです。
今は門から一直線に伸びる通りを適当に歩いているのですけど、やはり王都と言うだけあって人で賑わっていました。店のようなものも沢山あって目を奪われてしまいます。後で落ち着いたら行きましょう。
まあとりあえずは今日の宿と夕食をどうにかしないといけないんですけどね⋯⋯。このままだと野宿の可能性もありますから、それだけは避けたいところです。
⋯⋯そこでふと、さっき門のおじさんが言っていたことを思い出します。
『そうだ、料金とかはかからないんですか?』
『ああ、その事なら、お嬢ちゃんは可愛いから無料にしてあげるよ。本当はダメなんだけど特別にな』
私の体質は神様にお願いして消してもらったので、まさかそんなことないと思うんですけど⋯⋯。
あの抜けてる神様なら有り得るかもしれないと思っている自分がいます。
⋯⋯まさかそんなことってないですよね?
好かれすぎて死んだ少女は転生して嫌われ者を目指す チル鳥 @Tirudori
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