好かれすぎて死んだ少女は転生して嫌われ者を目指す

チル鳥

第1話 少女は死んで転生する

 突然ですが私はとても人に好かれています。あっ、勘違いしないでくださいね。これは決して自慢などではなく、どちらかと言えば悩み事の部類に入るものなのです。


「由乃ちゃん!一緒に帰ろ!」

「何言ってるの?由乃ちゃんは私と帰るの!」

「二人とも何を争ってるのさ、由乃ちゃんと帰るのは私に決まってるじゃん」

「あの、皆さん落ち着いて⋯⋯」


 今現在女子達が争っているのは、一人の少女と誰が一緒に帰るかという、私からしてみれば非常にどうでもいいことなのです。ちなみに由乃というのは私のことで、本名は美影由乃と言います。

 自分で言うのもなんですが、特にこれといった特徴のない私がなぜここまで求められているのでしょうか。恐らくその理由は体質と言う他にはないのでした。

 少しだけ昔の話になるのですが聞いてください。






 私がこの体質を最初に感じ始めたのは幼稚園の頃だったと記憶しています。

 同じクラスの子供達は、私に近づいてきては色々なおもちゃなどを渡してきました。けん玉や縄跳び、手作りの剣のような物もあったと思います。

 当時の私は純粋でしたから、それらを素直に受け取って楽しく遊んでいました。今思えばあの時渡されたおもちゃの数は⋯⋯、今の私が数えるのが面倒だと思うほどには多かったですね。

 毎日のように数え切れないほどのおもちゃに囲まれている私を心配してか、先生が声をかけてきたことも数回あったような、なかったような。

 そんな話をして何が言いたいかと言うと、分かりますよね?『私は幼稚園の頃からすごかった』これに尽きます。






 さて、続いては小学生時代です。

 この頃が一番酷かったのではないでしょうか。

 登下校時は歩くのが困難なほどの生徒に囲まれていましたし、授業中にペアを組む機会があった日には数人怪我をして保健室に行っていたような⋯⋯、これについては深く考えないでおきましょう。嫌な思い出です。






 次は予想がつきますよね?正解です、中学時代です。

 この時はあまり困ったことはなかったように思えます。

 強いていえば三日に一回くらいのペースで告白をされていたことくらいでしょうか。これも決して自慢などではないのです。あなたに分かりますか?同性からも告白される人の気持ち。






 今の話を聞いて最初の言葉が自慢ではないと分かってもらえたでしょうか?もし分からないと言う人がいるなら、その人は相当な鈍感野郎か楽観主義なのだと思います。

 そんなくだらないことを考えている間に女子達の私争奪戦は終わりへと近づいているようでした。


「じゃあ、みんなで一緒に帰るってことで異論はない?」

「「それでいいよ」」


 一人の提案に他の二人が頷いているのを見て、私は三人に見つからないように早足で教室を立ち去った。

 最初から私は一人で帰る気でしたから、彼女達の話し合いは無意味でしたね。そう考えると心が痛みます。⋯⋯もちろん嘘ですけど。

 下駄箱で靴を履き替えていると後ろからドタドタとうるさい足音が聞こえました。

 その足音の主は。ええ、その通りです。先程まで私争奪戦を繰り広げていたあの三人です。


「ちょっと由乃ちゃん!先に行っちゃうなんて酷いよ!」

「すみません、用事があったものですから」


 もちろん用事なんてありません、嘘デタラメです。


「用事があるなら仕方ないかー、明日は一緒に帰ろうね!」

「はい、都合が合えば」


 ですが彼女達は私の嘘デタラメを信じたようで素直に見逃してくれました。ちょろすぎます。

 私は背中に若干視線を感じながら下駄箱の前を離れました。






 それから私は一人で帰路を辿っていました。

 別に寂しくなんてありません。それに学校にいるとうるさすぎるので、こうして一人で落ち着く時間が私にとっては必要不可欠なのです。

 しかし事件は突然に起こりました。


「由乃ちゃーん!」


 信号待ちをしていると、後方から私の名前が聞こえました。

 振り返るとそこには、先程の三人とは別の同じクラスの女子がこちらに向かって走って来ていました。名前は確か⋯⋯、やめておきましょう、本当に大切なのは名前ではなく、相手と話そうとする気持ちです。決して名前を忘れているわけではありませんよ。

 まぁ、仮にAさんとしましょう。Aさんは私の近くへ来ると突然何かに躓き前方へと体を倒しました。


 ⋯⋯目を覚ますと真っ白な空間に一人座っていました。

 あの後どうなったのかはあまり覚えてはないのですが、どうなったんでしたっけ?

 Aさんが倒れて、それを私が受け止めて、Aさんのあまりの力の強さに私の体は後ろへ倒れて⋯⋯。

 思ったよりも普通に覚えてましたね。まあ簡潔に言いますと、私は名前も知らない少女Aを助けて人生終了したみたいです。残念です。

 でも私、死んだにしては意識がはっきりしすぎじゃないですか?まさかまだ生きてたりします?


「残念ですけどあなたはもう死んでますよ」

「!?」


 突然後ろから声をかけられました。そして私の知りたかったことを教えてくれました。優しいですね。

 後ろを振り向くとボサボサの金髪で幼い顔立ちの男性がそこにはいました。見た感じ外国の方でしょうか。

 それよりこの人今、私の心を読みました?


「一応僕神なので、心を読むことくらいはできますよ」

「まじですか、神様ってすごいんですね」

「そうですよ!神様はすごいんです!」


 急に現れた神様(?)は褒められてとても嬉しそうでした。






「それで、あなたは本当に神様ってことでいいんですよね?」

「そうです、あなたの世界の神様です」


 にわかには信じられない話なのですけど、さっき心を読んでいたし信じるしかなさそうですね。


「そうです、信じてくださいね」


 また心を読まれてしまったみたいです。プライバシーも何もあったもんじゃないですね。


「それで神様、私はこれからどうなるんですかね?」


 私は気になっていたことを尋ねることにしました。

 神様は一瞬難しそうな顔をしましたが、スグに笑顔に戻って二本指を立てました。人差し指と中指です。


「一応二つ選択肢があるんだよね。一つはこのまま死んで来世に生まれ変わる。もう一つは記憶と肉体がそのままで異世界に転生する。どっちがいいかな」

「記憶と肉体そのままの異世界でお願いします」

「えっ、即答?」


 即答でした。迷う要素なんてあるでしょうか。


「この若さで死んだんです。まだやりたいことが山のようにありますよ」

「そりゃあそうだよね」

「逆に他の人はどっちを選んでいるんですか?」

「君が初めてだけど?」

「え?」

「普通死んだら問答無用で記憶を消して来世に生まれ変わらせるんだけど、君はなんか気になってね。特別扱いだよ」


 まさか神様にまで好かれるとは⋯⋯、私の体質恐るべしです。


「じゃあそろそろ転生させるけど何か要望はある?一つくらいなら叶えてあげられると思うけど」

「いいんですか?」

「特別だよ」


 そう言った神様はいたずらっぽく笑っていました。


「願いはもう決まってます⋯⋯。私の人に好かれやすい体質を無くしてください」


 まさか死んだことによって、この体質を無くすことができるなんて、夢にも思っていなかったです。


「本当にそれでいいの?」

「もちろんです」


 私が迷いなく言うと、神様はさっきのいたずらっぽい笑いとは違う、優しさに満ちた笑顔で笑いかけてきました。


「じゃあ元気でね」

「はい神様、行ってきます」


 異世界では絶対に平和に過ごしてみせます。そう決心した数秒後、私の意識はだんだんと薄れていきました。

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