僕はエージェントアーロンー4 馬鹿者
「嫌です」
「拒否権はない。バカモン」
男が言葉を発する前に僕の意見を述べたのにあっさり却下された。
僕はこの後の工程を知ってる。何度も「夢」で経験してるからな。
勿論「夢」でしか無かったから今の今まで信じては無かったが、警戒は怠らないぞ。今までのアーロンは「あれ」を油断してやられてるからな。
「君はこれから「機関」のエージェント・アーロンになるんだ。何度も転生夢を見てるだろ?早く気持ち整えろバカモン」
「そうですよ先輩。話進まないじゃないですか。このバカモノ」
「おっ?なんだ陽炎。君もそっちの味方か?」
いや可笑しいだろ。僕だってまだ状況の整理と覚悟が付いてないのに何で馴染んでるんだこの後輩は?ついさっきまで「へ?」って感じで困惑してたのに。
「「特異人」・・・陽炎ちゃん?だね。陽炎ちゃんの言う通りだ。進めていこうよ。」
6本腕の女性が提案する。というか陽炎は名前のままなのに、何で僕はもうアーロン呼ばわりなんだ?そんな疑問を呈する前に6本腕が先に進める。
「アーロンは私たちの事どれだけ分かる?じゃあ・・・この人から。」
そうして指をさしたのは魔法使いっぽい兎だ。
僕は軽く息を吐き気持ちを整える。六本腕の言う通り、このままだと「バカモン」「何だコノヤロー」と醜い押収を繰り広げていたことだろう。
「僕の「夢」が正しければ・・・エージェント・ティム。専門は【魔術系統】。《マジック》。【獣人次元】《ビーストディメンション》出身。アーロンとの共同任務回数は8回前後・・・。5代前アーロンの時に今のエージェント・ティムに転生している。」
僕の説明を終えると、今まで帽子で顔を隠していたティムは少しだけ帽子を上げ。
「・・・・・任務は7回だ。」
ボソッと呟くと更にもう一言
「・・・バカヤロ」
「オイオイちょっと待って。一回間違えただけでしょ?何で僕は馬鹿呼ばわりされなきゃいけないわけ?」
「しょうがないよティム。だってアーロンってどんな時もバカだったじゃん。」
六本腕の女も合わさって、いよいよ全員に馬鹿呼ばわりされた。
というか、これはアーロンが馬鹿にされてるんであって僕が馬鹿にされてるんではないよな?
「私前から先輩の事バカな人だな~と思ってたんですけど、アーロンを引き継ぐ素質があったからバカだったんですね。」
ポカンと口を開けて陽炎を見てしまった。
「ハァ??君何言ってんの?」
ぶっ飛んでびっくらこいた。陽炎は昔から僕の事をバカにしてたのか。
「その辺で良いだろう、哀れだ。次にいこう、この子は分かるか?」
男が六本腕の女を指して無理やり話を進める。元々アンタが最初にバカって言ったんだろうに。
「・・・エージェント・アリア。専門は
アリアは器用に六本の腕で握手をする。
「おーやったね。せいか~い。」
そこに、僕のアリアの説明を聞いてた陽炎が何か言いたそうに手を挙げる。
「蟲人ってことは・・・・。アリアさんは蟲と混合の人間なんですか?」
「その通り!クモだよ~。陽炎ちゃん飲み込みと洞察力凄いねぇ。」
「えへへ・・・・それほどでも・・・あるなぁ。」
偉く嬉しそうにデレデレとする。僕にとっては不愉快だ。
ついさっき出会ったばかりの奇人達に僕は馬鹿にされ、陽炎は褒めらめる。何だこの状況。
「さて先輩。残りのこの男性は分かりますか?」
「・・・・・君もう完全にそっち側の人間だな。言っとくけど君はこっち側の人間だよ?」
「はいはい、分かりました。そういうのいいですから。行きましょう。321・・・ホイッ!」
陽炎は、お答えくださいどうぞ!!っといった感じのジェスチャーを僕に向けた。僕に味方はいないのか?
「・・・エージェント・サニー。専門は
「その通り。上出来だ。」
今更褒められたって嬉しかないな。
「さて、記憶の確認も出来たし新しいアーロン誕生を記念して写真撮ろうか
。」
アリアが何処からともなくスマホを取り出す。
「へー。機関エージェントって割とアナログなもの使うんですね。」
「これはカモフラージュ。いく世界世界で使うもの変えるの。機能は遥かに優れてるよ。はいはい皆集まって。」
自撮りで撮るのかと思ったが、サニーがスマホを受け取った。どうやら輪に入らず撮影するだけらしい。
「はい全員寄って。アーロン良かったな。周り全員女性。ハーレムだぞ。おっさんにはうらやましいぞ。」
ティムは僕の膝上。陽炎が左。アリアは右。
膝上のティムは小型犬程の重さで、登ってきた時の動きは丸々として可愛らしい。
陽炎は遠慮なしに体を押し付けてきて腕組みをする。何か香水でもつけてるのだろうか、種類は分からないがいい匂いがした。
アリアも腕組みしてきたが、片側二本の腕で組んできたので新鮮な感じだった。蟲と混合だが、人間的肌の柔らかさがあるので全く気にならない。
こんな精神状態で撮影、と思ったが・・・こういう状況だと存外悪い気はしないものだ。
「はい行くぞー。・・・チーズ」
パシャっと音を鳴らしフラッシュが光る。
「イエーーーーーイ」
陽炎とアリアが一緒に声を上げハイタッチをする。多分この二人は似たもの同士なのだろう。
ティムは・・・・どいてくれない。そういや記憶でも膝上にいたっけ・・と思いだした。意外とここがお気に入りなのだろうか?
ところが、いい気分になっていた時サニーの一言が水をさす。
「やっぱバカだなアーロン。」
「あぁっ!?」
滅茶苦茶乱暴に反応してしまった。
「このフラッシュ・・・覚えないか?」
「?フラッシュ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ」
マヌケな声が出てしまった。記憶を辿るとあった。というか初めは「それ」を警戒していたのに。
「・・・プフフッ・・」
アリアが噴出して肩を震わせている。こころなしかティムも小刻みに震えてる気がする。
陽炎は、えっ?といった感じでキョトンとしている。サニーが助け船を出すように質問をした。
「陽炎氏。アーロンの前について分かることはあるかい?」
「・・・その質問。アーロンではなく「先輩」の方ってことですね。」
「そうだ。何でもいいぞ」
「そうですね・・・・・・・・・・・・・・・」
答えが中々出てこない。手を前に合わせて考え出す。そんな陽炎をみてたら、自分に起こったことが現実になったと実感してしまった
「・・・先輩だったってこと以外思い出せない。」
「そらそうだよ!っはっはっはっはっ・・!!」
陽炎が自分の身に起きたことを口に出したと同時に、僕は大声で笑いだした。もういっそ肯定してしまう。
陽炎はようやく気付いたのだろう。驚愕の顔を浮かべ。
「もしかしてさっきのフラッシュ・・・!!」
サニーが正解と言った感じで指を鳴らし。
「その通り。流石。」
「「・・っはっはっはっ!!」」
声にだしてアリアと僕は笑ってた。
アリアは僕の馬鹿さ加減に。僕を騙せた喜びも入ってかなり楽しそうだ。
僕は自分の情けなさに笑っていた。半ばヤケだ。
さっきのフラッシュには仕掛けがあった。
都合良い様に記憶が書き換わるのだ。
つまりたった今、陽炎と僕から「僕」が無くなった。
今頃おそらく知人にも他のエージェントが実行してるだろう。
僕はもう「僕」では無い。
僕は「エージェントアーロン」
異世界群を守護するものになった。
気持ちが落ち着いて陽炎が一言。
「先輩・・・もうちょっと警戒しないと」
「・・・・うるさいよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます