僕はエージェントアーロンー2 再開

「・・・先輩は昔からその・・・「夢」?を見ていて、今その・・・「俺」?に近づいてると?」


僕の話を聞いていた陽炎は、自分の思考を纏める為に手を体の前に合わせて黙り込んでしまった。

喫茶店では、音を小さくして流れるジャズと、薄暗いランプの灯の影響でゆったりとした時間が流れる。

今「夢」の話をした陽炎と僕はよくここに来て適当な談話を繰り広げている。

そういう関係なのだ。

僕は陽炎が自分の結論を出すのを待つことにした。

陽炎は、一度考え込むと中々周りに目を向けようとしない。こうなったらほっておくのが一番だ。

しかし、いくら陽炎といえど僕は「夢」を話すことは今まで無かった。

原因は「夢」を見なくなって明らかに様子が変わった僕にあるが。

だが他の人間にはやはりいつも通り「夢」については話すつもりはなかった。

だが、あれだけ迫られたらどうしようもない。顔を合わせるたびに先輩、先輩と後ろを付いて回られ、

一体全体どうしたのですか?自己啓発本ですか?セミナーですか?親類の死ですか?宗教ですか?はっ!恋ですか!?

と質問を浴びまくった。

最初は、僕より一回り小さい小動物がぴょんぴょん飛び回ってるのを楽しんでたが、流石に毎日続くと飽きてくるし心が折れてしまう。

まぁでも良かったのだろう。遅かれ早かれ誰かには話していた・・・と思う。

むしろ下手な他人に話すより、陽炎に話して良かった気がする。

陽炎の持つ「知識」と「好奇心」ならむしろこの「夢」に何らかの答えが出るかもしれない。


「先輩・・・からだ乗っ取られるんじゃないんですかね?」


「はぁ・・・・おぉ?」

随分奇想天外な事を言い出すもんだ。

「君が言いたいのはつまり、僕が「俺」と呼んでるそいつに僕の肉体を奪れちゃうってこと?」

陽炎は僕の質問の間に、自分の注文したアイスティーをストロー越しに一口含め。

「ですねぇ。一番考え付いたのはそれです。一応他にも考えましたよ?神霊予言説、先輩聖人説とね。ですがこれらは違いますね。先輩からはそんな徳のようなもの感じないですし。」

さらっと失礼な事言いやがる。と思ったが、間髪入れずに陽炎は自分の説を主張する。

「これは仮設ですがね。先輩は生まれてから例外なく、その「俺」以外の夢を見たことが無い。かつ結末はいつも同じ自殺。ですが、自殺したのに次に見る「夢」の主観はまた「俺」。何故なんでしょう?」

仮説と言っときながら、自分の説で興奮してきたのか、段々と陽炎の話すテンションが高まってきている。

ほぼ自分の中では確証に近いのだろう。

「先輩の話では「俺」は常に何らかの任務を遂行しているのですよね?例えばOO7やイーサンハントみたいに。でも、全ての任務が上手く行くわけではない。だから予備プランとして、失敗するたびに自殺し「魂」を移動させる術を、「俺」が持っているとすれば?」

僕はうんと頷き、取り合えず黙って聞いてやることにした。

「今度の憑依先は先輩です。でも、いきなり乗っ取る事は出来ない。だから徐々に徐々に「俺の記憶」を先輩に「夢」という形で見せながら植え込んでいった。」

陽炎は前のめりになり、ここからが良いところですよといった風にアピールしてくる。

「先輩が「夢」を見なくなったのは植え込む記憶が無くなったから。」

「後は先輩の心を・・・そうですね深層心理レベルで変化させ、体を鍛えるようにしむき「俺」の体に近づけることで間も無く憑依が完了するという事ではないでしょうか?」

「「俺」の目的は、「俺」が先輩に憑依して身体を得る事、そして今度は先輩の体から「俺」として新たな任務を開始すること。」

陽炎はコップからストローを抜き取りそのままその先を僕に向けて。


「これこそズバリ!「俺」先輩憑依説です!!」


僕は腕を組み首を少し傾け椅子に背もたれた。

半分感心、半分呆れで。

「う~ん。なるほどね・・・。」

陽炎は説明が終わったからもう興味が無いといったあっけらかんとした様子で。

「仮説ですからね。あくまでも。そんな考え込む必要ないですよ。我思う故に我ありです。私には、先輩視点で客観的、私視点で主観的な意見をいう事しか出来ないので。」

そのままいたずらっ子が面白い玩具を見つけたという風に陽炎は続ける。

「ただ。先輩がそんなに面白い状況なのを知れてラッキーでした。これからは先輩が、どう変化していくのかじっくり観察したいと思いますよ。先輩と全く別の「俺」になるのか、先輩は先輩のままなのか」

「実験動物か僕は。」と反射的に突っ込んだ。

陽炎はふふっ、と軽く笑みを浮かべ。

「後は・・・そうですね、超常心霊学を専攻してる友達がいるのでその子にも相談してみます?先輩の体にはいま何人の霊が取りついてるのか。多重人格、憑依、呪いには一番効果があるかと。」

それもありか、と思ったと同時に後ろから「聞き覚えのある」声が二つした。



「やぁアーロン。そして何という事だ「特異人」まで誕生していたとは。」

「運が良かったね。これで借金の一部を返済出来るじゃん。」



咄嗟に振り返ってしまった。



アーロン。それは「俺」の名前だ。

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