第2話 天才

 こんなことを言った人がいる。


「天才の一瞬のひらめきは、凡人の一生に勝る」


 そういわれてしまうと、今、俺が懸命に物事を考えているこの時間が、無駄な気がしてならなくなってくる。

 そこで一つ、付け加えたいと思う。

「天才の一瞬のひらめきは、凡人の一生に勝る。

―――だが、凡人の一瞬のひらめきは、天才の一端に勝る」と。

 天才が日常的に考えることよりは、凡人の一瞬のひらめきの方が勝っていると。


 これは、そうであって欲しいという願望かもしれないが、僅かでも先んじている点がないと、凡人のモチベーションも下がってしまうというものだ。

 なにも天才と同じ土俵で戦おうという訳ではなく、見据える先を自分と同程度に設定したいのだ。それも出来ないと、打つ手がなくなってしまう。そこに進化を見出すことができなくなってしまう。天才というのは、恐ろしいものだ。


 じゃあもし俺が、天才だったら。

 圧倒的頭脳によって、英雄にでもなれるだろうか。

 確かにそれは良い気分になれそうだ。

 しかし、数でいえば、凡人が圧倒的に多い。

 諦観せども、共感されず、同感されず、好感を抱かれず。その道中に会う艱難は知りえない。

 その寂寥感に毒されて、最後は自ら命を絶ってしまう…。

 なんて、悪いところばかりに想像を膨らませるのは日本人気質かもしれないが、やっぱり俺は、凡人で良かったのかもしれない。

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