泡を飛ばす凡人

千木束 文万

第1話 凡人

 仄暗い四畳半の部屋に、平凡な頭で平凡なことを考える凡人が一人。畳の目に、ただぼんやりと横たわっている凡人。瞳は虚ろで、口からは何も紡がれてきません。

 かといって、何もしていないわけではありません。

 彼は、考えているのです。日常を過ごすうちに浮かんだ疑問を、人知れず頭の中で吟味して、時に解を得て満足し、時に落胆する。

 実に凡人らしい答えに落ち着くこともあれば、ふと良いアイデアを思いついたりすることもある、のかもしれません。

 では今、彼は何を考えているのでしょう。



 小説においては、モブの考え事などに興味を示す読者はいなさそうなものだが、それは多くの作者がモブを注視せず、ガヤやヤジという役割に充てているからだろう。

 というか、モブに焦点を合わせてしまったら、そいつは最早モブではなくなってしまうだろう。モブと定義されてしまった時点で、小説の中でそいつに焦点があてられることはなさそうだ。


 でも、凡人の考え事ならば、まだ焦点があてられる可能性はある。「凡人」は人物設定になりうるからだ。

 しかし、人物設定が「凡人」だけの者は、いるのだろうか。まぁ、いなくはないだろう。が、おそらく主人公にはなりえないだろう。だって、明らかにつまらなさそうだし。

 世界観をどうにかこうにかすることで、凡人を主人公たり得る人物に仕立て上げるのも、簡単ではなさそうだ。


 ・・・いや、でも、凡人の考えをそれとなくいい感じに書くことによってなら、凡人は主人公たり得るかもしれない。それとなくいい感じって何だ・・・。うーん、もう何でもいいか。

 テキトーなことをテキトーに書いてれば、案外成り立つなんてこともあるかもだ。

 それで成り立つんだったら、お気楽なもんだとは思うけども。

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