第10話 記念室 (後編)
シアノに連れられリオンは記念室に向かっていた。
「あの、リオン殿は出身はどちらなんでしょうか」
シアノはじっと廊下を見つめながら質問する。
「俺はこの帝都から離れた田舎村の出身だよ。国の南端の方だな。村の名前は覚えてないけど、鉱山で働きながら暮らしていた」
「そ、そうなんですか。私、地理は得意じゃないので村の名前は推測できませんが、帝都から遠いところで暮らしていたんですね」
「それに昔は奴隷として父親とのその日暮らしだったから、今貴族の君とこんな風に会話をしているのが不思議な気分だ」
「そんな、学校では貴族とか関係ありませんから!...でも、前のコーザとの一件を見られていたなら分かると思いますけど、この学校でも身分意識を持つ生徒は多くいます」
「当然だと思ってるよ。学校の外じゃそれが当たり前だし、外のルールから急に学校の中のルールに切り替えろって言っても、すぐに考え方を変えるのは無理だろう」
「やっぱり、この国ではあれが当たり前の光景なんですね...」
「え?」
リオンが聞き返すと、シアノは慌てて話題を変えた。
「も、もうすぐ記念室です。この学校ってとても広いから、まだ知らない部屋だらけですよね」
「確かに。自分たちの寮の部屋と授業がある教室、それと図書室くらいしか入ったことがないな。校則で入る事が禁止されている部屋も多いし、結構謎だらけの校舎だな」
あまり考えていなかったが、学校の探索は重要かもしれない。
立ち入り禁止の部屋があるくらいだ。何か危険があるのか、秘密があるのか...。
どちらにせよ興味が湧いた。
「今度アーサーも誘って3人で校内の探索をしてみるのも面白いかもな」
「いいですね!とても楽しそうです」
彼女の顔が明るくなる。
前に見た時とだいぶ印象が変わった。笑っている顔は気品がありながらも無邪気で、とてもリオンの心を惹きつけた。
♢♢♢♢♢
「着きました!ここが記念室です!」
シアノは元気よく扉を開ける。
なるほど、確かにこの部屋なら色々なものが見れそうだ。
部屋にはびっしりとガラスケースが並べられており、記念品がその中に保管されている。
歴史が長いというだけあって部屋の大きさも広く、数時間は時間が潰せるほどの品数だ。
「凄いな。トロフィーにメダル、勲章もある。こっちは歴代校長の愛用した武器に、輩出した卒業生寄贈の記念品...これは盾か。なんでもあるな。まるで武器庫だ」
「士官学校というだけあって、戦闘につかう物が多いですね。お目当てのものはありそうですか?」
「探してみないと分からないな。学校がまだ城として使われていた時の何かを、記念品として保存していたりしてくれてないかなー」
「あっちの方はどうでしょう。学校が作られた時の記念品なら、初代皇帝に関係する何かがあるかも」
「...。これはなんだ?」
「んーと、これはこの城の設計図のようね。初代皇帝が部下に命じて作らせたものって書いてあるわ」
「こんな大事なものを記念品として人の目に触れる場所に置いているのか。帝国のセキュリティも案外適当だな」
「でもガラス越しに見えるのは最初の一枚だけね。これを見たら城の隠し通路とかも分かるのかしら」
「隠し通路どころか、隠し部屋まで載ってるかもな」
一通り見たが、やはりそう簡単に見つかるわけないか。でも収穫はあった。
やはり校内の探索は早急に取り掛かろう。その為にもあの設計図をなんとかして手に入れたい。
「シアノ、ありがとう。この設計図を見つけただけで大きな収穫だったよ。どうにかしてこの設計図の中身を見れないかなー。そうすれば3人で探索するときに、かなり大きな手がかりになるのに」
「手がかり?そんな本格的にお城の探索がしたいの?」
「いや、どーせやるなら隠し部屋を見つけるくらいの気持ちでやりたいなって思ってさ」
リオンは咄嗟に誤魔化した。
シアノの性格だ。そんな事したら校則に触れる可能性があると怒るに違いない。
「いいわね!ワクワクする!私も絶対誘ってね」
シアノの予想外の反応に、リオンは驚いた。
♢♢♢♢♢
「記念室の中はどーだったー?」
リオンとシアノが食堂で夕飯を食べていると、アーサーが遅れてやってきた。
「シアノのおかげで収穫があったよ。記念室にこの城の設計図が飾られていたんだ」
「殿下!リオンが3人で校内の探索をしようって提案してきたんです。面白そうだと思いませんか?」
「シアノと話していたら、この学校の中の事を全然知らない事に気付いてね。その設計図が手に入ったら本格的な探索ができるのにって話してたんだ」
「どーせやるなら隠し部屋を探すくらいの本格的な探検にしたいって!」
「シアノが乗ってくるとは思っていなかったよ。てっきり怒られるかと思った」
「私だってこのお城に興味はあるもの。隠し部屋なんて、先生たちでも知らないお宝が眠ってそうでワクワクするわ」
アーサーはニコニコしながら二人の会話を聞いている。
「ふーん、色々話が進んでるんだね。お二人とも、ずいぶん距離が縮まったんじゃない?記念室に行く前とは別人の会話を聞いているみたいだよ」
「で、殿下!」
シアノの顔は林檎のようにみるみる赤くなっていった。
「酷いなあリオン。僕にもまだそんな気軽な口調で話してくれないのに」
リオンは無言でアーサーを軽くこずいた。
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