第9話 記念室 (前編)
リオンは焦っていた。
学校での生活は順調そのものだったが、本来の目的である自分の過去についての手がかりを何一つ掴んでいなかった。
加えてリオンはまだ自分の力を完全に使いこなせていなく、父親がやっていた様な記憶に入り込む技術を身につけていない。
(父さんは形あるものは何でも記憶を宿すと言っていたが、俺はまだ魔力を帯びた物体の記憶しか探れない。それすらも完璧ではないしな)
入学してから何もしてこなかったわけではない。大広間で装飾として使われている骨董品は、リオンの予想通り今でも強い魔力を帯びていた。
父親の見よう見まねで魔法を使ってみたが、過去の使用者の声や風景などのありとあらゆる情報が一気に身体へ流れ込み、まるで大音量のノイズを永遠と聞かされる気分だった。
到底そこから情報を得ることなど不可能で、気が狂う前にリオンは断念した。
最初からできるはずはないと覚悟をしていたが、父親がいつかできるようになると言った言葉を疑いだし始めるくらい挫折していた。
(こうなったらもっと強い魔力を帯びた物体を探すしかないか。一度脳が破壊されるくらいの衝撃を受けてみれば制御の力も鍛えられるかもな)
リオンはベッドに横になると大きく伸びをした。外は晴れていて、生徒たちが朝食前の時間をのんびりと過ごしている。
「リオンまだ寝てたの?食堂に朝ごはんを食べに行こう!今日は僕らの授業は午後だけだし午前中はゆっくりできるね」
朝の散歩から帰ってきたアーサーが元気よく部屋に入ってきた。
「いいよなー。お前はお気楽そうで」
「大変だなー。リオンはいつも考え事ばっかりで」
♢♢♢♢♢
食堂は朝食を待ちわびた、飢えた生徒たちで埋め尽くされていた。
数百人はゆうに座れるであろう長テーブルがいくつも設置されているが、それでも溢れてしまいそうな人数だ。
厨房ではシェフが忙しなく調理をしており、出来上がった料理が魔法で空中を飛び回っている。生徒たちは注文さえすれば、配膳から片付けまで全てやってもらえる素晴らしい環境だ。
「ここのシェフは凄いな。あれだけの注文を一気に料理してる」
リオンは感心して厨房の様子を見ていた。
「しかも作った料理を正確に魔法で配膳してるしね」
「あの人、なんでシェフなんてしているんだろう。器用すぎる。魔法って万能に見えるけど、細かい動作とか複数の対象に使うとなると結構技術がいるんだぜ」
他愛もない会話をする二人の目の前にハンバーグが降ってきた。空腹の二人は会話も忘れて必死で食らいつく。
「そう言えば、この学校って昔は皇帝が住む城だったんだろ。どこかに宝物庫とかないのかな」
「どうだろう、僕の家にはあったけど、この城が使われなくなった時に保管していたものも新しいお城に移しちゃったんじゃないかな」
「そうか」
(宝物庫があれば、何か記憶を引き出す練習に使えそうなものがあると思ったのに...)
「殿下、おはようございます!リオン殿も」
振り返るとシアノが立っていた。
「朝食を終えて寮に戻ろうとしたのですが、お二人の姿が見えたもので」
「リオンでいいよ」
「申し訳ありません、同世代の人間との会話が不慣れで...名前を呼ぶのに抵抗が」
シアノは赤面しながら答えた。
「シアノが呼びやすい呼び方でいいよ」
「リオン、僕の事だって滅多に名前で呼んでくれないのに、シアノの事はもう名前で呼ぶんだー」
アーサーがリオンをからかう。
「シアノに聞きたいことがあるんだけど、このお城に宝物庫があるって話聞いたことない?」
リオンはアーサーを完全に無視して話を続けた。
「宝物庫ですか...。そのような部屋は聞いたことがありませんが、学校の記念室ならありますよ。過去の優秀な生徒や卒業生の記念品が納められている部屋ですが、もしかしたら歴史的な品も納められているかもしれませんね。何せ歴史が長い学校ですから」
「記念室か...!ありがとうシアノ。場所は分かる?」
「はい。私も何度か行ったことがあるので、この後お時間があるならご一緒しましょうか?」
「助かるよ。アーサーも一緒に来る?」
「いや僕は遠慮しておくよ、なんか行かないほうがいい気がするし」
アーサーは意地悪くニヤニヤしている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます