第11話 暗躍する者たち
かつて神々が人類に与えた楽園と呼ばれたゲナム大陸。
豊かな土地に恵まれ、多様な種族の生き物が互いに共存して暮らしていた。
しかし、魔法や科学が発展すると共に、生き物たちは私利私欲のために争いを始めるようになる。
戦争はゲナム大陸全土に広がり、生き物たちはそれぞれの主張を掲げ、国を作り現在でも大陸中で争いを続けている。
ウルカ帝国は現在、数々の国がひしめき合っていたゲナム大陸の西側およそ半分を制圧し帝国領としていた。
帝国は東に兵を送り続け、いずれはゲナム全土を呑み尽くす算段であった。
そのゲナム大陸の西に位置するウルカ帝国から数百キロ離れた海上に、小さな島がある。
神々が与えた楽園ゲノムから僅かに離れた場所に位置するその島の名はガムア。
今となっては神の祝福から外れた不吉な島として、誰も近寄らない無人島となっていた。
♢♢♢♢♢
ーーガムア島 某所
外は季節外れの豪雨に見舞われ、光の届かない薄暗い部屋の中で男が二人、ロウソクの置かれた机越しに向かい合っていた。
「依然として、捜索は難航しております...」
薄明かりの中仮面を付けた男は床に跪き、机の奥で椅子に座る男に語り出した。
「帝国が領地拡大のため東に派兵している兵団に間者を忍ばせましたが、それらしき物の情報はなく出ておらず、北部へ向けた捜索隊からの報告も」
仮面の男が報告を進めていると突然、閃光と共に激しい音が部屋中に響いた。
仮面を付けた男の身体は衝撃と共に後方に投げ出されると、入口の扉に強く打ちつけられそのまま地面に崩れ落ちた。
「ぐっ....」
「ドレイクよ。探し物が非常に希少で見つけるのが困難である事は分かっている。かつて帝国が建国された時に作られたと言われる5つの遺産だ」
仮面が外れ、ドレイクの顔がロウソクで照らされる。
「しかし、お前が最後に遺産を見つけたのはいつだ?」
椅子に座っていた男は立ち上がり、ドレイクの方にゆっくりと歩み寄る。
ドレイクと同じく全身をローブで覆っているが、ローブの上からでも背骨が曲がっている事が分かる。声はしゃがれていて、わずかに見える口元はかなり年老いている。
「10年前、帝国の...南端の村で、見つけた物が...最後...です」
ドレイクは恐怖で顔を歪めながらも、声を絞り出した。
「さよう。あれで我の手元ある遺産は2つ。帝国の皇帝が持つと言われている遺産が1つだ。お前は残りの3つを必ず帝国より先に見つけなければいけない」
ドレイクは再び跪き、床に目を伏せる。
「だが...お前はあの日、重大なミスを犯した。あの村で殺しを行い遺産を強奪した事が帝国へ伝わり、遺産を狙う我々の存在が知られてしまったのだ」
「目撃者は皆殺しにしましたが、まさか死体の記憶を読める者が存在するとは知」
老齢の男が手を前に出すと、ドレイクの身体は床を離れ宙に浮かんだ。
「言い訳はよい。しかし、お前の報告が正しければこの10年、帝国も遺産を一つも見つけてはいないはず。引き続き皇帝を見張らせろ。奴は遺産を見つければ必ず回収を命じるはずだ」
老齢の男が虚空を握りしめるように手を動かすと、ドレイクの喉元が締め付けられた。
「仰せの...ま..まに」
ドレイクがそういうと魔法は解け、身体は再び床に落とされた。
「次の報告は、期待しているぞ」
そう言い残すと老齢の男は部屋の隅の闇に向かって歩き、そのまま同化し消えてなくなった。
ドレイクは暫くその場を動く事が出来なかったが、ゆっくり立ち上がると、まだ震えの残る手で扉を開けた。
(急がないと...。僕の命も危険だな)
部屋を出ると、埃の被った階段を降りながらドレイクは思考を張り巡らせた。
(あの鉱山から遺産が発見された時、鉱山と帝国の関係を調べたが、なんの縁も所縁もない、どこにでもある普通の鉱山だった)
腐食した穴だらけの廊下を歩き進み、蜘蛛の巣だらけの玄関を出る。
(だとすればヒントも何もないただ広大な大陸から遺産を見つければならないというのか...)
ドレイクは必死に考えて歩くうちに、いつのまにか屋敷を出て外で雨ざらしになっていた。
季節外れの湿った雨粒が頬を伝い、涙のように滴り足元の水たまりに吸い込まれていく。
「濡れるつもりはなかったんだがな...」
ドレイクは独り言を呟くと、ふと目の前に白骨化した死体が転がっているのが目に入った。
「私が無様に見えますか?」
ドレイクは紳士的な口調で骸に話しかけると、静かに歩み寄り手に取った。
この古びた屋敷は、もともと成金が別荘として島に建てたものだった。仲間内で遊ぶには無人島がもってこいだと踏んだんだろう。
「無様という点では、あなたも私も似た者同士かもしれませんね」
ドレイクは屋敷の持ち主をそっと土に還すと、眩い光の塊に消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます