13.その潔さは賞賛に値する
「準備できた」
「いくよ」
双子に恐怖心はない。この地に仕掛けをしたのが神なら、同族だった。傷つける意図はないだろう。ここまで呼び寄せて、開けてみろと示したのだから。一度目に訪れたときはただの花畑だと思った。二度目に上から眺めて気づく。ただの美しい花畑に描かれた魔法陣は、花弁の色を変えることで示された。
用意された魔法陣を読み解いたアナトが下した結論は、危険。古い魔法陣をそのまま使うことで、自分達への負担が大きすぎた。最適化して無駄を省き、消費する神力を軽減した。その上で新たに魔法陣を上書きすることで、行使する力の主導権を握る。魔王サタンの配下である以上、負けは論外。神力の使い過ぎで倒れる無様も避けたい。
双子は頷きあって神力を流し始めた。大量に流して、一定量が魔法陣に満ちたところで、徐々に調整を始める。この辺りは、魔族との戦いで覚えた加減がうまく作用した。魔法陣がじわじわと光を帯びて、上で待つ仲間の目に可視化される。
「もうすぐだね」
「何が出て来るか楽しみ」
好奇心旺盛な双子はわくわくしながら、踊るように力を魔法陣に流し込んだ。
足元で光る魔法陣がくっきりと目に映る鮮やかさを帯びる。ぼんやりしていた輪郭が浮き上がった。真円が幾重にも重なり、合計8段の魔法陣が思い思いに回り始める。
「綺麗だね、サタン様」
リリアーナが目を輝かせる。キラキラした物が好きなのは、ドラゴンの習性だ。宝石や金貨を大量に集め、巣穴に保管する。リリアーナも寝室に貯め込んでいるのは知っていた。褒美として与えた物はもちろん、貰った物も大切に並べる後ろ姿は嬉しそうだった。
昔与えた指輪や腕輪は身に着けている。魔力を込めることで竜化しても壊れないのが要因だろう。今も指輪の上を大切そうに撫でていた。そんなに好きなら、大量に保管している収納の宝石や魔石を与えてみようか。きちんと管理するなら問題ない。
そんなことを考えるオレの目前で、魔法陣の中心に扉が現れた。それをアナトが躊躇なく掴んで引っ張る。しかし開かないのか、バアルが加わって引き始めた。
「……あの扉、押すんじゃないか?」
アスタルテが眉を寄せた。なぜか双子は引っ張ることに固執しているが、形状からして押して開く可能性が高い。彼女の言葉が聞こえたらしく、慌てて2人は扉を押した。先ほどの苦労が嘘のように、あっさりと開いていく。
上が丸いアーチ状になった扉はゆっくりと中央から割れて、中から光が溢れ出た。小さく大地が震動し、すぐに収まる。城に残る者達に話を通してあるから、すぐに混乱を収めるだろう。地震と呼ぶ規模でもなく、気のせいで終わる揺れだった。
『糸が紡いだ意図を汲んだ方々の尽力に御礼を』
長い金髪の女神が現れ、続いて銀髪の男神が現れた。対の人形のように、彼と彼女の顔は酷似している。声を重ねてお礼を口にした2人は、ゆっくりと膝を突いた。見上げる神々の視線は、解放した双子ではなくオレに向けられる。
『我らの願いはひとつ。解放のみ』
「よかろう」
この世界をオレに引き継ぎ、散ろうと願う潔さは賞賛に値する。頷いて承諾した途端、足元の風景が変化し始めた。
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