11.解けていく仕組み
気を逸らす風景ではなく、美しい風景に目を奪われたらどうなる? その場に留まろうとするだろう。住むに相応しい土地だと思えば、双子は簡単に……。
「そういうことか」
オレと双子の違い、いくつかあるが一番大きなものは種族だ。アナトとバアルは双子神で、堕天しても神族のままだった。神格は著しく損なわれているが、神としての地位は保全されている。だがオレやアルシエルは魔族だ。アルシエルが倒れた理由は不明だが、神族であれば眠った神々を呼び起こせるのか。
双子が拒絶されない理由は他に考えられなかった。ならばククルも同様に受け入れられるはずだ。神格を返上させられても、種族は変更していない。
「ククルと双子は、眠った神々を起こす鍵かも知れん」
膨大な神力が必要になるとすれば、ククルは動けない。彼女の失われた力はまだ戻っておらず、回復の途中だった。数万年かけて溜めた力を解放したのだから、また数万年かけてコツコツ貯めるしかない。ならば双子だけで起こせるか?
――いや。
「起こすためとは限らない」
男神と女神の話を、アスタルテは悲恋だと聞いていた。それは何らかの行き違いで、2人の恋仲が崩れたことを意味する可能性がある。だとしたら、求めているのは破滅かもしれない。自分達を倒せる相手、消滅させることが出来る大きな……。
考えが何かに誘導されていく。この世界にオレが召喚された理由が、これか。
「明日、動く」
「……っ、はい。ご武運を」
アスタルテは同行を拒んだ。この世界に生まれた初期の魔族として、生みの親に当たる神々の最期を看取るのが怖いのだろう。自分が消滅するかもしれない。作り手を失う恐怖は、アスタルテを苛んでいた。
「アスタルテに同行を命じる」
無言で頭を下げるアスタルテの肩に手を置いた。いま説明しても、彼女はまだ理解できない。すべてが終われば、嫌でも感じ取れるはずだった。
この世界は、終焉を望んでいるわけではない。むしろ逆だった。発展するために知恵と力を持つ者を選んで呼び出す。それは神々が眠る直前に仕込んだ予定調和だ。アスタルテの中で作動し、条件に合うオレを選び出した。
この世界から逃げたアスタルテが、オレを追ってこの世界に戻る。数千の世界からオレが召喚された……その天文学的な確率は、狙って用意されたレールだったのだ。振り回された今、無理矢理にでも起こして文句のひとつも言ってやらねばなるまい。
「ただいまぁ」
勢いよく窓から入ってくるリリアーナを受け止め、オレは苦笑いを浮かべる。何度注意しても覚えないが、これがリリアーナなのだ。そして彼女と出会う機会を与えてくれた礼も、伝えておいた方が良さそうだ。明日は神々と対峙する。その意味は、オレとアスタルテの中で真逆の印象で捉えられていた。
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