412.魔王城、拾い子、問題は山積みだった
大地を揺らし裂いた土竜の親子再会を見届け、双子はマルコシアスとマーナガルムの背に乗って帰城した。
地下水脈がある不安定な地盤に閉じ込められた子供は、必死に母親を呼んでいた。自分がいる場所が崩れて水の中に落ちれば、体力がない子供はすぐに死んでしまう。なんて非道な作戦を作るのかと、自分達の言動を棚に上げて憤った。
双子が立てる作戦計画はもっと残酷なのだが……誰しも他人の粗は突いても、自分の手元は確認しないものだ。土竜の親に子供を引き渡したのが、森の中だった。ついでに荒野を耕して欲しいと要望を出し、働いた分を取り返す辺りがアナトらしい。
土竜は子供を連れて帰るついでに、荒野一帯を耕す約束をした。多少地面が揺れているのは、その影響だろう。城の近くで警戒していた銀狼を連れ、子供達は城の門を飛び越えた。
門番には悪いが、開けてもらってもマルコシアスが通れない。マーナガルムもぎりぎりだった。ドワーフに門を作り直してもらうよう、お願いしなくちゃね。そんな話をしながら、城内を見回すと……すべてが小さかった。魔王城として機能させるには、大型魔族が快適に過ごせるサイズが必要だ。
「大広間も小さいしね」
「サタン様に話してみようか」
後ろを歩くマーナガルムとマルコシアスは、牛程度のサイズまで縮んでいる。だがすべての大型種族が同じように小型化したり、人化できるとは限らなかった。事実、巨人族は大きいのが標準だ。攻撃時にさらに大きくなることは可能だが、元のサイズより縮むのは不可能だった。
「ご苦労だった」
途中でアスタルテに合流する。彼女は人間の子供を連れていた。魔術師として修行するティカルとマヤだ。
「どうしたの?」
アスタルテの様子が気にかかり、アナトが首を傾げる。
「魔族になりたいと強請られてな」
困ったと溜め息をつく吸血鬼の両手を握った子供達は、無邪気に言い放った。
「魔族になれば、サタン様のお役に立てる」
「私ももっと強くなるから」
死が目前に迫る状況で助けられたティカルは、大切な妹を守る力をくれた魔王に心酔している。妹マヤも兄と一緒なら魔族でもいいと言う。気持ちは理解するが、簡単に種族の垣根を越えるのは問題があった。
「人間じゃなくなるんだよ?」
ティカルに言い聞かせるように、アナトは尋ねた。その覚悟があるのか。人間から魔族になる方法は幾つかあるが、逆はなかった。一度決断してしまえば、戻ることが出来ない。
「お兄ちゃんと一緒なら平気」
「僕はもう妹を失いたくない。強くなって恩返しするんだ」
「ずっとこの調子だ」
だから困っている。そうぼやいたアスタルテへ、バアルはからりと笑った。何でもないことのように、子供達を肯定する。
「いいじゃない。きちんと種族を選んで魔族になったらいいよ。でもその前に、サタン様の許可を得なくちゃね」
頷く兄妹に複雑な顔をしながら、アスタルテは両手に彼らを連れて広間へ向かった。その後ろ姿を見ながら、マルコシアスが呟く。
「意外と、子守姿も似合いますな」
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